もしも従業員がインフルエンザにかかってしまった場合出勤欠勤扱いはどのようにすれば良いのでしょうかまた、その時の賃金の支払いは中小企業おける実務を想定して社労士が分かり易く解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「従業員がインフルエンザにかかった時の会社の対応は?」についてお話をします。

まず参考までに幼稚園や学校の場合どういう風になっているのかというと「学校保健安全法」という法律の中では、「発症後5日かつ解熱後2日経過するまでは出席停止」というように決まっています。発症後5日というのは発症日を0日として、発症日の翌日から数えて5日間経過かつ熱が下がってから2日間経過するまでは登校してはいけませんと法律で決まっているんですね。

では会社員の場合はどのように決まっているのかといいますと、実は法律で決まりがないんですね。何日経過するまでは会社に出勤してはいけませんというような就業禁止のルールは法律で定まっていません。ただし発症後5日間は会社に出社したりしないで自宅で療養してください、というのが常識的一般的な行動として推奨されているというわけなんです。実際インフルエンザ陽性と診断されるとお医者さんから5日間は療養してくださいねという風に言われますからね。

本人の意思で欠勤→欠勤控除(原則)

普通は会社に電話して、インフルエンザにかかってしまったので何日までお休みします、という風に自分からお休みを取るというのが一般的な行動だと思います。この場合はいわゆる欠勤(病欠)ですから、欠勤控除という扱いをするのが原則的な処理になります。ノーワークノーペイの原則に基づいて働かなかった期間に関しては賃金を支払う必要はないということで休んだ期間分の賃金を減額するつまりその期間の賃金は0%にというわけなんです。ただその他の対応としては、年次有給休暇が余っている場合などは、本人の希望により有休の取得をしていただくということが考えられます。この場合は通常の賃金が支払われる場合が多いと思いますので100%の賃金が受け取れるということになります。ですから有休がある方に関しては有休扱いにしていただいてその間の賃金が減額されることがないということが一般的だと思います。それから、こじらせてしまって療養が長期化するケースなどの場合には健康保険から傷病手当金が受けられる可能性があります(健康保険に加入していることが前提となります)。インフルエンザのために労務不能となっているという証明をお医者さんにしていただいて、健保組合や教会けんぽに申請することによって傷病手当金が受けられます。標準報酬日額の3分の2の額が休業4日目以降から受け取れるということになります。おおよそ給与の3分の2が受け取れるんだという風に理解していただいてよろしいかと思います。以上が一般的なケースですね。

会社の判断で出勤停止→休業手当(原則)

中にはインフルエンザと診断されても会社に行こうとする方がいらっしゃいます。最初から1日も休まずに行く方もいらっしゃるかもしれませんし、1日は休んでお医者さんで処方された薬を飲んだら熱が下がったのでもう大丈夫ということで2日目から行こうとする方もいらっしゃるかもしれません。本人は大丈夫と言っても他の従業員にウイルスを感染させる危険性はありますから会社としては来ていただかない方がいいわけなんですね。この時に、会社の方で自宅待機してくださいと休ませる場合にはどういう処理が必要かということなんですが、平均賃金60%以上の休業手当を支払うということになります。その他の対応としては、もし本人が希望すればなんですけれども、有給残日数がある場合には有休を取得していただいてもいいわけなんですね。休業手当は平均賃金の60%以上ですが有休取得であれば100%受けられるということで、本人が希望すればこういった処理も可能です。ただし会社の方から、休業手当を払いたくないがゆえに強制的に有休取得をさせることはできませんので注意してください。それから在宅勤務ですね。これも一つの方法になるかと思います。熱も下がって喉も痛くなくて咳も出ないけれどウイルスを感染させる危険はあるので出社はしていただきたくないんですけれども本人がどうしても大丈夫だから仕事したいという場合には、色々な状況が許せば在宅で勤務していただくという方法も考えられます。その場合にはもちろん通常通り勤務しているという扱いになりますので100%の賃金を支払うということになります。

インフルエンザにかかっている人は労務不能なんだから休業手当を支払う必要はないと説明される方もいらっしゃいます。確かに労務不能であれば雇用契約上の義務を果たしていないわけですから賃金を支払う必要がないというのは筋が通っている話で一理あるなと思いますが、実務上はその労務不能っていうはどういう風に線を引くのか、どういう風に会社が判断するのかというのがちょっと難しいんじゃないのかなと思うんですね。インフルエンザにかかってもいるのに出社しようとしてくるというのは稀なケースだと思うので、そういったことが起きても会社は休業手当を支払うことによって自宅待機させられる、出勤停止を命じられるという風にプラスに考えていった方がいいのではないでしょうか。

逆に、もう熱下がっているだろうから仕事できるでしょと出社してくださいあるいは在宅で仕事してくださいと、本人が休みたいと言っているのに勤務を強要するのはまずいと思います。これは安全配慮義務違反に問われる可能性があるので避けていただければと思います。新型コロナウイルス感染症も同じように考えていただいて結構です。新型コロナウイルス感染症は令和5年5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類という区分に変わりましたので、同じような扱いをしていただいてよろしいかと思います。

インフルエンザは非常に感染力の強いウイルスです。職場で感染が広がると企業活動に重大な支障が出てしまうということも考えられます。そのために例えば早めの予防接種を奨励したり費用の一部を補助したりするなどの方法も有効かと思います。色々な対策のご検討をよろしくお願いいたします。

今回は「従業員がインフルエンザにかかった時の会社の対応は?」についてお話をしました。これからの労務管理に少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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