こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「年俸制における残業代の計算方法」についてお話をします。
そもそも年俸制とは何なのかといいますと、「1年単位で支給額を決定する給与形態」のことを言います。月単位で支給額を決定する給与形態は月給制ですよね。月給制は多く見られると思いますけれども、年俸制も一部見られる給与形態ということになります。
この年俸制を採用した場合に、間違った運用をしているケースが時々見受けられるんですね。ですから今回はこの点についてお話をしていきたいと思います。
年俸制を導入した場合の二つの注意点
まず年俸制を導入した場合の注意点として二つ見ていきましょう。
①年俸制でも残業代の支払いは必要。
これはよく勘違いしていて、年俸制だから残業代は必要ないでしょうと考えておられる方がいらっしゃいます。プロ野球選手の契約公開のニュースなどで年俸の話がよく出ますよね。それと混同してしまって、年俸制なら残業とかは関係ないでしょうと考えてしまうかもしれないんですけれども、プロ野球選手は雇用契約ではなく個人事業主としての業務委託を結んでいますので、皆さんの会社における社員さんとの雇用契約で年俸制を採用する場合というのは全く話が違ってくるとうことになります。
ちなみに年俸制でも固定残業代を導入することは可能です。(正しく導入するにはそれなりの手順が必要になります)
②1年分まとめて払ってはだめ。
年俸いくらと年額を決めてそれを一気に払ってしまうというように、1回払ってあと1年間払わないというのはダメだ、ということです。これはなぜかといいますと労働基準法第24条に賃金支払いの5原則というルールが定められていて、その中の一つ「賃金の毎月払いの原則(賃金は毎月1回以上支払わなくてはならない)」こういう決まりなんですね。ですから年俸制を採用してその総額を決めたとしても一般的にはそれを12分割して月々払う、こういった運用が多いかと思います。
正しい計算方法は?
それでは残業代の計算方法を、具体例を見ながら確認していきましょう。
(例)年俸720万円 月平均所定労働時間170時間 ある月の残業20時間
ケース1 1/12の額を月々支給
7,200,000÷12=600,000 毎月支給
600,000÷170×1.25×20≒88,236 残業代
これはまあ間違いないと思います。
問題なのはケース2の方です。
ケース2 1/16を月々支給 2/16ずつを夏と冬に「賞与」として支給
7,200,000÷16=450,000 毎月支給
450,000×2=900,000 賞与
450,000÷170×1.2×20≒66,177
これは間違いだということなんですね。
この残業計算のスタートを45万円でやってはダメですと、ということになります。この賞与というのは、たまたま賞与という名称で支給していますけれども、このやり方というのは支給の便宜上こういう風に支給しているだけであって、年俸720万円ということはケース1だろうがケース2だろうが変わらないわけですね。いわばこの方の基本給は年間720万円なんですね。それなのに残業代が変わってくるというのはおかしなことであって、便宜的にこういう支払い方をしている場合であっても、この賞与というのは2/16つまり90万円と事前に確定していますよね。ですからこれは労働基準法上では賞与とはみなされないのでその分も含めて残業計算をしてくださいね、とこういうことになるわけです。
つまりこのケース2のような支給をしている場合であっても残業計算する際には、ケース1と同じような計算をしてくださいとうことになるわけです。年俸額を12で割った額60万円をスタートとして所定の計算式をして残業代を求めるということになります。支払方法がケース1であろうがケース2であろうが同じ時間残業したならば残業代は同じになってこなければいけないというわけなんです。
年俸制は残業代の支払いの不要な給与形態でもありませんし、賞与の額を調整して残業代を低く抑えるスキームでもありません。どうか正しい計算をして残業代を払っていただければと思います。
今回は「年俸制における残業代の計算方法」についてお話をしました。これからの労務管理に少しでも参考になれば幸いです。
執筆者
志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員