賃金は1分単位での支払いが原則ですが、給与計算の便宜上、労働時間を15分単位で集計したいという会社も多くあります。それは直ちに違法なのでしょうか?社労士が逆転の発想で説明します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。

今回は、「残業代は1分単位で払わないと絶対に違法か?」についてお話をします。

給与計算をする際に、労働時間を15分単位あるいは30分単位で集計している会社は実際にあるかと思います。そういった方法は可能なのでしょうか?給与というのは1分単位で支払わないといけないのではないか、こういうことに関して今回はお話をしていきたいと思います。

労働時間は1分単位で集計するのが原則

まず、労働時間は1分単位で集計して賃金を支払う。これが原則となります。実際に働いているのであればそれが3分だろうが8分だろうがきちっと給料は支払わなければいけないということになります。ですから例えば、15分単位で給与計算を行っている会社が14分までは切り捨てているとか、あるいは30分単位で給与計算を行っている会社が29分働いたとしてもそれは切り捨ててしまうというような取り扱いは、違法だということになります。14分とか29分の労働時間、これは未払いになっている賃金ということになりますので、後から請求される可能性があります。

1か月を集計して30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げはOK

ただどんな場合でも必ず1分単位でないと違法かということではなくて、例外というものがあります。1ヶ月の労働時間を集計して30分未満は切り捨て・30分以上は切り上げ、こういう取り扱いはOKということになっています。あくまで1カ月の労働時間です。これを日々やってはダメなのですが1カ月間の労働時間を集計したときの端数1分~29分の30分未満の部分は切り捨てる、その代わりに30分~59分までの部分は切り上げる、こういう取り扱いに関しては認められています。

給与計算の便宜上、15分単位で集計するのは絶対に不可能か?

ところでこういう例外の取り扱いではなくて、あくまで15分単位で集計したい、という会社はあるかと思います。便利だから15分単位で給与計算をしたいというニーズは実際にあると思います。15分というのは0.25時間ですから計算上キリがいいんですね。30分は0.5時間、45分は0.75時間と給与計算をやるときに計算の便利がいい、計算の便宜上15分単位でやりたいんだ、という場合があります。こういうのは絶対不可能なのでしょうか?

15分単位に切り上げて集計すれば可能になる!

実はそんなことはないんですね。15分単位の給与計算というのは可能です。

どうやればいいのかということなんですけれども、15分単位に切り上げるのはOKということになります。切り捨てたらNGなのですが切り上げるのは構いません。労働者にとって有利ですからね。残業命令もしくは残業の許可を15分単位で出してその時刻までに打刻をしてもらう、こういう運用ができれば15分単位の給与計算というのは可能になります。

そもそも残業というのは従業員さんが勝手にやることではなくて、会社が残業命令を出してやっていただく、あるいは残業許可申請・残業許可制度を採用している会社においては残業許可申請を出していただいて会社がそれを許可するという手続きを踏んで初めて残業というものは本来成立するものなんですね。ですからそのときの残業命令あるいは許可の単位を15分単位にしてしまうということが考えられます。

実際の運用方法は?

例えばここに運用例をあげておきます。

(運用例)

 10分間の残業→15分までに打刻→15分の残業代

 25分間の残業→30分までに打刻→30分の残業代

 40分間の残業→45分までに打刻→45分の残業代

 55分間の残業→00分までに打刻→60分の残業代

残業を10分25分40分55分のいずれかで命令する、あるいは許可申請を認めるというような運用をした場合、例えば10分間残業をしてくださいと言って10分やっていただいて15分までには打刻していただく、そして15分ぶんの残業代を支払う。このような取り扱いであれば実際よりは多く集計しているわけですから違法にはなりません。10分だけ残業してくださいと言って10分で終わると5分余裕がありますよね。15分までに絶対打刻ができる、よしんば12分13分かかっちゃったとしてもまだ余裕があるので15分までには打刻していただく、それを切り上げて15分ぶんの残業代を払うということは違法にはならないわけですね。もしそれが伸びて15分までに打刻できなかった、10分の残業のつもりが16分17分18分かかってしまったよというのであれば、もうそこで25分に切り替えてしまえばいいですね。だったら25分間何らかの仕事をしてくださいそして30分までに打刻してくださいね、と言って30分ぶんの残業代を支払う、こういった運用ができればこの15分単位の給与計算というのは違法にならないんですね。

ですからどうしても計算の便宜上当社では15分単位で給与計算をやりたいという場合にはこういうような運用をしていただくことで可能になるというわけなんです。

業務終了後の個人的な時間は集計に含めなくてよい

ただしここで一つ注意していただきたいことがあります。『仕事が終わってから打刻までの意味不明なタイムラグはないか?』これ注意してください。例えばYahooニュースを見ている・同僚と雑談している・歯を磨いたりトイレに行ったり上着を着たりという業務に関係ない帰宅前の個人的な身支度、こういったものは仕事ではありませんから、こういう時間を含めて集計する必要はない、ということなんですね。

今回は「残業代を1分単位で払わないと絶対に違法か?」についてお話をしました。これからの労務管理に少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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