1年間における1か月あたりの平均所定労働時間、つまり月平均の所定労働時間数を計算しようとすると、割り切れなくて端数が出るときがあります。この端数処理はどのようにしたら良いのでしょうか?社労士が解説します。
こんにちは。社会保険労務士の志賀です。 今回は、「月平均の所定労働時間の端数処理はどうする?」についてお話をします。
「月平均の所定労働時間」が分からないと残業計算はできない
残業代というのは、「時間単価×1.25×残業時間」で求めます。1.25というのが割増率になります。この時間単価というのは、時給制の人はその時給そのものですから分かりやすいのですが、月給制の方の場合は、その月給をいったん時給換算して求めなくてはいけません。
月給を月の所定労働時間で割って時間単価を求めます。その上で先ほどの計算式で残業代を計算することになります。
月の所定労働時間ですが、その月ごとに労働日数って違いますよね。20日だったり22日だったり、月によって労働日数が変わりますので、その月の労働時間というのは毎月変わることになります。ですからその月のリアルな所定労働時間を用いてしまうと毎月時間単価が変動してしまうということになってしまいます。そのため月の所定労働時間は、年間における平均値すなわち「月平均の所定労働時間」を用いるということが、ルールとして決められています。「月給÷月平均の所定労働時間」で時間単価を求めなければなりません。
「年間休日数」が決まらないと「月平均の所定労働時間」は求められない
では、この「月平均の所定労働時間」はどうやって求めるのでしょう。これは「(年間所定労働日数÷12)×1日の所定労働時間」で求めます。
「年間の所定労働日数」というのは、365日から年間の休日数を引いたものです。例えば年間休日数が125日だとすれば、365-125で年間所定労働日数は240日となります。1年は12カ月ですから240日を12で割ると1カ月あたり平均して20日、これが月平均の所定労働日数になります。月平均所定労働日数が求まったらそこに1日の所定労働時間を掛けると月平均の所定労働時間が出てくるというわけです。
つまり年間の休日数が変われば残業単価も変わることに注意!
ここで注意していただきたいのは、年間休日数というのは、例えば土日祝日が休みの会社さんの場合には、祝日の日数が年によって変わったりしますよね。ですからこの年間休日数は年によって変わってくることになるわけですね。そうすると年間所定労働日数というのも変わってきて、月平均の所定労働日数も変わり、月平均の所定労働時間も変わります。つまり年間休日が毎年変わるのであれば、時間単価も毎年変わるということですね。例え月給額に変更がなくても、年が変われば残業計算における残業単価は変わってくる可能性がある、ということは注意しておいてください。
端数処理は法律で決まっていないが労働者有利になるように
それでは、月平均の所定労働時間の計算式を具体例で見ていきましょう。
例
・年間所定労働日数260日(年間休日数105日)
・1日の所定労働時間8時間
これを計算式に当てはめると、(260÷12)×8=173.333…と割り切れないです。
そこでこの端数処理をどうするか、これが今回のお題です。実務をやっている方は悩む場合があるかと思います。
この場合の端数処理をこうしなさい、と法律で決まっていません。ですから会社によって決めることになりますが、労働者不利な取り扱いはできませんので。端数処理は労働者有利になるようにしなければいけません。
ということは、切り上げるか切り捨てるか四捨五入するかが選択肢になってくると思いますが、労働者有利にするためにはこの端数処理は「切り捨て」なければいけません。
ではどこで切り捨てるのか。小数点以下で切り捨ててしまって整数の部分で求めるのか、それとも少数第2以下を切り捨てて少数第1位まで求めるか。これは自由に会社さんごとで決めていい部分なのですが、切り上げとか四捨五入は労働者不利になってしまいますので駄目ですよ、ということになります。
173.333の場合は173時間、または173.3時間、という端数処理を行うのが一般的です。
今回は「月平均の所定労働時間数の端数処理はどうする?」についてお話をしました。これからの労務管理に少しでも参考になれば幸いです。
執筆者
志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員