こんにちは。社会保険労務士の志賀です。
今回は、『妊娠・出産・育休を「理由とする」不利益な取り扱いとは?』についてお話をします。
まず、労働者が妊娠や出産をしたこと、あるいは育児休業を取得したことを理由としてその労働者に対して不利益な取り扱いをすることを、男女雇用機会均等法や育児介護休業法では禁止していますが、それぞれ根拠が違うのです。

順番に見ていきましょう。
男女雇用機会均等法では、女性労働者が妊娠・出産したことを理由として不利益な取り扱いをすることを禁止しています。
不利益な取り扱いというのは、例えば、解雇や雇止め、降格や減給したりすることなどを指します。
妊娠や出産をするということから、こちらは女性労働者を対象にしています。
そして、育児介護休業法においては労働者が育児休業を申請したり、また実際に取得したりしたことを理由として不利益な取り扱いをすることを禁じています。
不利益な取り扱いというのは、先ほどと同じ様に、解雇や雇止め、降格や減給したりすることを指します。
育児休業は男女問わず取得出来ますので、こちらの規定は男女を問いません。
この2つの法律によって、妊娠や出産、育児休業の申し出をしたことなどを理由とする不利益な取り扱いは禁止されている、という事なのですね。
ここで問題なのは、この「理由とする」ということです。
原則
何をもってこれらを「理由とした」と判断されるのか、というのが本日のテーマです。
結論なのですけれども、原則として妊娠出産、育休の申請から1年以内に行われた不利益な取り扱いは、「妊娠や出産、育児休業の申し出を理由としている」と判断されるということになります。

いやいや違いますよ、と否定しても、1年以内であればそういう風に見られてしまうという事です。また、1年を超えているから大丈夫という訳でもありません。
例えば、次の契約更新のタイミングが1年を超えた少し先にあったとします。そこで雇止めをした場合は、同じように「妊娠や出産、育児休業の申し出を理由としている」と判断されます。
1年を超えていても、妊娠や出産、育児休業の申し出などがあった直後に人事異動や雇止めなどをしてしまいますと、「妊娠や出産、育児休業の申し出を理由としている」と判断されてしまいますので、気を付けてください。
例外として、
例外
①不利益な取り扱いをせざるを得ない業務上の必要性があって、その必要性が労働者の被る不利益を上回っている場合
業務上の必要性というのは、急激な業績の悪化ですとか、その労働者が真面目に働かなくなってしまった場合です。
②労働者が、その不利益な取り扱いを受けることに同意をしており、有利な影響が不利な影響を上回っていて、一般的な労働者なら誰でも同意するような理由が客観的にある場合
有利な影響が不利な影響を上回っているというのは、例えば降格された場合、降格されたことも、降格に伴ってお給料が下がったことも不利な影響といえますが、その労働者が、体調などの理由で業務量を抑えたかった場合、降格したことによって業務量が抑えられるなら、とその労働者の同意が取れていて、なおかつ一般的な労働者であってもその条件であれば同意するのではないかという客観的な理由がある状況であれば、認められる可能性があるということになります。
ただし、やはり原則は、妊娠出産、育休の申請から1年以内に行われた不利益な取り扱いをした場合には、「妊娠や出産、育児休業の申し出を理由としている」と判断されてしまう、ということになります。
いかがでしたでしょうか。
先ほど、例外として①と②の場合を解説しましたが、なかなかこの例外が認められるハードルというのは高いと思いますし、立証するのもなかなか難しいと思います。
やはり、例外を使ってどうこうすることを考えるよりも、原則に乗っ取って、1年以内または直後に、労働者に対して不利益な取り扱いをしてはいけないのだという風に考えておいた方がいいのではないかと思います。
今回は、『妊娠・出産・育休を「理由とする」不利益な取り扱いとは?』についてお話をしました。
少しでも参考になれば幸いです。
執筆者

志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員