正社員がパートタイマーになった場合、年次有給休暇はどのように付与すれば良いのでしょうか?勤続年数の扱いや残日数の処理など、社労士が詳しく解説します。

年次有給休暇の日数は法律で決まっています(厚生労働省リーフレット)

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。

正社員からパートタイマーになった方へ有給休暇をどのように付与すればよいのかというご相談をいただきました。

まずは年次有給休暇の付与日数に関する基本的なことを確認しておきましょう。

年次有給休暇の付与日数を確認しましょう(正社員とパートタイマー)

こちらの表をご覧ください。(上記リンク厚生労働省リーフレット「年次有給休暇の日数は法律で決まっています」)

年次有給休暇は6ヶ月間継続勤務して出勤率が8割以上あると付与されますが、こちらの表の通りとなります。

上の表「(1)通常の労働者の付与日数」と書いてありますが、こちらは正社員などのフルタイマーの方の付与日数の表になります。表の上の段に「勤続年数(年)」、下の段に「付与日数(日)」と書いてあります。「勤続勤務年数0.5」これは6カ月という意味ですが、そうすると「付与日数10」つまり入社して6カ月間継続勤務して出勤率が8割以上あれば10日間の年次有給休暇が付与される、そしてそれ以降、1.5、2.5と1年増えるごとに11日、12日と付与日数が増えていくことになります。もちろんその各1年間の出勤率が8割以上あることが必要です。そして右側の方に「6.5以上」「20」とありますが、6年半で20日間付与されることになり、それ以降は毎年20日間の有給休暇が付与されることになっています。

次に下の表「(2)所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数」、こちらはパートタイマーの方の付与日数の表になります。パートタイマーの中でも、「週所定労働日数が4日以下」かつ「週の所定労働時間が30時間未満」のどちらも満たした場合にこちらの表を使うことになります。もし週所定労働日数が5日であったり、週の所定労働時間が30時間以上あったりしたらこの下の表は使わないで、(1)正社員と同じ表を使うことになります。

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間30時間未満のパートタイマーには、週の所定労働日数に応じて正社員より少ない日数の有給休暇が付与されることになります。これを「比例付与」と言います。例えば週の所定労働日数が4日の方の場合には、0.5のところに7と書いてあります。入社半年で7日間有給休暇が付与されるということになります。この週の所定労働日数の右側にある「1年間の所定労働日数」とありますが、これは週以外の期間によって労働日数が定められている場合に使います。例えば週何日ではなく月何日と決められている場合には、それを12倍してこの表に当てはめるということになるわけです。

以上が年次有給休暇の付与日数に関する基本的な事項のおさらいになります。

正社員からパートになった場合の有給休暇、注意点は3つ

それでは正社員からパートになった場合の有給休暇の取り扱いについてみていきましょう。

注意点は3点です。

  • 付与日数は付与日の契約内容で判断する。

先ほど見ていただいた表によると付与日数は週所定労働日数や週所定労働時間に応じて決定されるということになっていました。正社員からパートになった方に有給休暇を付与するときには、その付与日の労働条件がどのようなものであるかによって判断します。

  • 勤続年数は通算する。

先ほどの表を見ていただいた通り入社半年それから1年おきに日数が増えていきましたが、パートになった方に有休を付与するときには勤続年数は正社員として最初に入社したところから数える、つまり勤続年数は通算するというわけです。

  • 残日数は引き継がれる。

年次有給休暇の有効期間は付与されてから2年間ですけれども、正社員からパートになったときに正社員時代に付与された有給休暇の残日数が残っている場合には、それはリセットされてゼロになったりしないでそのまま引き継がれるということになります。

具体例でみていきましょう

それではこの①②③について具体例でみていきましょう。

(例)令和4年4月1日に正社員として入社。本人の希望により令和5年10月1日より週3日・1日6時間のパートタイマーに契約変更。有給残日数は3日間あったとする。

本人の希望によりとありますが、正社員からパートタイマーへの転換というのは会社の命令ではできません。これは不利益変更にあたりますので本人が希望した場合など本人の合意を得て初めてできることですので、この点はご注意ください。

この方は令和4年4月1日に正社員として雇用され6ヶ月間しっかり勤務されて6ヵ月後の令和4年10月1日に最初の年次有給休暇10日間が付与されたということになります。その後令和5年10月1日にパートタイマーに転換されることになったというわけです。

もしパートタイマーに契約変更されなければここから1年後の令和5年10月1日に11日付与されることになりますよね。先ほどの表(1)にも入社から1年半で11日と書いてあったと思います。

ところがこの方はご本人の希望によりこの令和5年10月1日付けでパートタイマーに契約変更することになりました。週3日・1日6時間ですから週の所定労働日数は4日以下、そして週18時間ですから週の所定労働時間30時間未満、ということで先ほどの表(2)比例付与の表を当てはめることになります。週3日の場合には、入社1年半で6日と書いてあったかと思います。

「②勤続年数は通算する」ということですから、正社員として入社した令和4年4月1日からの勤続年数は1.5年ということになります。そして令和5年10月1日の時点ではこの方の身分は週3日のパートタイマーということになりますので、「①付与日数は付与日の契約内容で判断する」に従って6日になります。そして有給残日数は3日間であったと仮定していますので「③残日数は引き継がれる」ため正社員時代の令和4年10月1日に10日間付与された有給休暇は2年間有効ですから、この時点で残日数が3日間あったとすればそれも引き継がれるということで、令和5年10月1日にパートタイマーとして6日間付与され、正社員時代の残日数3日間と合わせ、令和5年10月1日時点ではこの方が持っている有給日数は9日間ということになります。

この9日間をこれからパートタイマーとして使用していくことができるということになります。ただし正社員時代に付与された有給であってもそれを使う時点では1日6時間のパートタイマーとして使うわけですから、その時に支払われる賃金は6時間分の賃金が支払われるということになります。

こういう場合はどうなる?

ここでもしかしたらこういう疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。

もしこの方が令和5年10月1日に3カ月契約のパートタイマーそして契約更新はなし、という内容で契約変更した場合には有給はどうなるのか?

結論だけ申し上げると、やはりこのような場合でも付与日数は6日間になります。この後にいつ退職するかというのは関係ないということですね。

今回は「正社員からパートになった従業員の有給休暇」についてお話しました。これからの労務管理に少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

プロフィールをもっと見る>>

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です