こんにちは。社会保険労務士の志賀です。
今回は、「週20時間以上のパートタイマーも社会保険に加入です!」についてお話をします。
今回は、社会保険適用拡大のお話ですね。「週20時間以上の労働時間があれば、パートタイマーの方も社会保険に加入することになっていますよ」というお話をしていきます。
「社会保険の適用拡大ってどういうことなの?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。これから詳しく説明しますが、ざっくり言って「正社員は社会保険に加入します。そして、パートタイマーは週30時間以上働くような方は加入する、そうでない方は加入しない」と、従来はこういうルールで来たわけです。
ところが、この社会保険の適用拡大があると、週20時間以上の労働をするようなパートタイマーの方も社会保険に加入することになる、とこういうことなのです。
この社会保険の適用拡大は、すべての企業に対して行われるわけではなくて、一定の条件を満たした企業に対してその適用拡大が行われるということになります。
そして、その社会保険の適用拡大の対象になる企業の事を、「特定適用事業所」と言います。
では、どういう企業が特定適用事業書に該当するかと言いますと、これは人数で判断します。
その人数なのですけれども、

2016年10月以降は501人以上の企業
↓
2022年10月以降は101人以上の企業
↓
2024年10月以降は51人以上の企業
これが特定適用事業所ということになっています。
この特定適用事業所においては、週20時間以上働くようなパートさんは社会保険に加入しなくてはいけないし、2024年10月以降ですから、もうすでになっているということになります。
この人数、よく従業員数と言われたりしますけれども、これは正確には「厚生年金の被保険者数」なのですね。
ですから、その会社で厚生年金保険の被保険者である方の人数をカウントするということになります。
役員さん、それから正社員の方、それから週30時間以上働くようなパートタイマーの方従来の基準で見ても社会保険に加入するような方ですね、その方々の人数を見ていくということです。
2024年10月以降はその数が51人以上いれば、特定適用事業書に該当するということに、既になっています。
ということは、厚生年金の被保険者数ですから、70代前半の方で、健康保険は入っているけれども厚生年金保険はすでに資格喪失しているという方は、社会保険に入っているとはいえ厚生年金の被保険者ではないですから、そういった方はカウントから除外されます。
そして、この厚生年金被保険者数は営業所ごとに見るのではなくて、会社全体で何人いるかを判断して、その会社が特定適用事業所かどうか判断するということになります。
中には、この人数が月によって変動する、「月によって51人以上になったり、50人以下になったりと変動を繰り返す場合、どういう風にして判断するの?」というケースもあるかと思うのですけれども、この場合には直近12か月間を見て、そのうち6ヵ月以上この人数をクリアしていれば特定適用事業所に該当する、という判断になります。
そしていったん特定適用事業所になった場合には、そのあとにこの人数が減ったとしても自動で特定適用事業所でなくなるということは無いのです。
特別な手続きをしない限り、人数が減った場合でも、その後も特定適用事業所であり続けるということになります。
そして、段々とこの「特定適用事業所の人数要件」が減ってきたというわけなのですけれども、2年前にも「2022年10月に101人以上が特定適用事業所になりました」という、似たような内容の動画をあげていますので、よろしければそちらも見てください。
この人数要件、だんだんと緩和されてきて、将来的にこの人数要件は撤廃されるような流れになっています。
それでは、適用拡大の内容を詳しく見ていきたいのですけれども、パートタイマーの方を社会保険に加入させるのか、させないのか、この判断ですね。
この説明の中では仮に、第一基準第二基準とします。
まず、第一基準です。
週の所定労働時間と月の所定労働日数が、どちらも正社員の3/4以上(≒週30時間以上)
この第一基準が、従来のパートタイマーの方が社会保険に加入する基準ですね。
いわゆる3/4要件と言われるものです。
正社員の所定労働時間というものは40時間が多いのです。(1日8時間で週5日勤務、週休2日制)その40時間の3/4というのが30時間です。
この要件は少し分かりづらいので、これをざっくりいうと週30時間以上働くパートタイマーは社会保険加入ですよという風に言い換えても、おおむね間違いではないという風に思います。
週30時間以上働く様なパートタイマーの方は今までも社会保険加入だったけれども、それに至らない方は社会保険に入れなかったというわけなのです。
その入れなかった方を「第一基準に当てはまらない人」としたときに、次に第二基準を当てはめて考え、もし当てはまったなら社会保険に加入ですよ、というものが社会保険の適用拡大なのです。
それでは、第二基準を見ていきましょう。
以下の4つを全て満たす場合には社会保険加入です、ということですね。
①週の所定労働時間が20時間以上
第一基準が30時間だったのに対して20時間ということなのですけれども、これは雇用契約書に書いてある所定労働時間が20時間未満であっても、実際に働いている時間が20時間以上ある月が2か月連続し、なおかつその後もその状態が継続することが見込まれる場合には3か月目から加入となります。
もちろんほかの要件も満たされていれば、ですけれども。
②月額賃金が88000円以上

ここでいう月の賃金88000円以上なのですけれども、ここには残業代とか通勤手当は含めません。家族手当や皆勤手当も含めないでこれが88000円以上になります。
この①と②が主な要件となります。
とはいえこの②の要件ですが、実は多くの場合①を満たしてしまうと②も満たすことになります。
どういうことかと言いますと、週の所定労働時間が20時間となりますと、ひと月4週と考えて約80時間ある、ということは時給1100円であれば月80時間以上働くと88000円に届いてしまうのです。
東京、神奈川、大阪はそもそも最低賃金がすでに1100円超えていますし、そうでなくても大都市圏ではパートタイマーさんの給料が1100円を下回っているケースというのは少ないと思います。
そうすると、週20時間以上働いた場合には自動的に②の条件を満たしてしまうことが多いかと思います。
ただ、時給がそこまでない場合にはそうではないケースもあり得ますが。
この88000円なのですけれども、このパートタイマーの社会保険適用を考えていくときに「106万円の壁がある」という様な話を耳にされたことがある方、いらっしゃるかと思うのですけれども、実は88000円の事を言っているのですね。
この88000円×12か月働くと、約106万円となります。
要は年収106万円行かなければいいのでしょう、と考える方がいらっしゃるかと思うのですけれども、つまり、たくさん稼ぐけれども年末に少し調整をして年収106万円いかないようにしたらいいでしょうと思う方もいらっしゃるかと思いますが、そうではないのです。
あくまで月額で見ます。
これはたまたま12を掛けると106万になるというだけであり、年収で判断するわけではありませんので、そこのところはお間違えの無いようにお願い致します。
③2か月超の雇用見込み
2か月を超えて雇用される見込みがあることですね。
これはもうほとんどの方が満たすのではないかと思います。
たとえ雇用契約書に契約期間に契約期間は2か月ちょうどだよ、と書かれていたとしても、そこには契約更新を更新する場合があるという更新条項などが通常ついていると思うので、その場合には2か月を超える雇用見込みがあるという風にみなされます。
④学生でないこと
これは昼間学生ではないということですね。
昼間に高校や大学に通っている方ではないということです。
定時制や通信制の事を言っているわけではなく、あくまで昼間学生ということです。
該当するケースはもちろんあるかとは思いますが、少ないのではないのかなと思います。
ですから、①と②がとても大切な要件で、先ほど言ったように、①を満たすと②も自動的に満たしてしまうケースというのは多々あり、①の週20時間以上というのが1番の要件であると言えます。
冒頭ざっくりと書いた「週30時間以上だったものが20時間以上になるのが適用拡大ですよ」と大まかな話をしましたけれども、このことを言っているわけなのですね。
現在、もう10月に入っていますから、51人以上、今までは特定適用事業所でなかった事業所が10月以降に特定適用事業所になったならば、この第二基準、今まではこの第一基準を満たさないから社保は加入していなかったパートタイマーさんを調べてこの第二基準を満たしているかどうかを確認し、当てはまっている人は資格取得届を出して、資格取得させないといけないということになります。
今まで、特定適用事業所ではなかったけれども、つまり101人以上いなかったから今までは特定適用事業所ではなかったけれども、2024年10月以降、51人以上いるということで、特定適用事業所に該当する場合には、厚生年金の被保険者数をある程度年金事務所で把握していますので、このままいくと該当しますよ、と通知が送られてきます。
特定適用事業所該当届というものが郵送で送られてくるはずですね。
その場合には、確認をして、間違いなく該当するということであれば、それを出して特定適用事業所になる手続きをしていただく必要があります。
それと同時に、第二基準に当てはまった方を社会保険に入れる手続きが必要になるということなのですけれども、パートさんの中には社会保険に入りたくないという方もいらっしゃると思います。
ですから、これから第二基準満たすため、このまま行けば社会保険に加入になる方とは、面談をしていただく必要があると思います。
「10月からルールが変わるので、あなたは今後社会保険に加入することになりますけれども大丈夫ですか?」と、そういう話し合いをして合意を得た上で進めた方がトラブルは少ないのかなという風に思います。
中にはどうしても入りたくない方がいらっしゃるかもしれないですね。
その場合には、週の所定労働時間を20時間未満にするなり、そういった調整をしていただく必要があります。

その時によく聞かれるのが、「社会保険料ってどのくらいかかるのですか?」という質問です。
ですから、ある程度概算、試算をしていただきたいのですけれども、ちょっとここに1つの例を参考程度に書いておきました。
報酬月額90000円程度の方(パートタイマーの方で、月の賃金合計が9万円ぐらいの方の場合です。)
この報酬月額、要は賃金の月額の事ですけれども、先ほどの第二基準では加入させるかどうかの判断をするときに88000円というのは残業代や通勤手当を含まないという風にご説明しましたけれども、少しややこしいですが、保険料を決定するときの報酬月額にはそういった残業代や通勤費も含めて考えます。
ややこしいので、ここではあまりその辺りは深く考えずに、おおむね賃金月額が90000円くらいのパートさんの場合に社会保険料は大体いくらくらいになるのかという目安を考えたいと思います。
健康保険料と介護保険料を合わせた額が大体平均5000円くらい、それから厚生年金保険料が8000円くらいということになります。そうすると合計13000円ですね。
(あくまでこの保険料は、中小企業さんが加入している協会けんぽ、しかも東京支部の場合であり、健康保険料は都道府県によって変わります。)
40歳から64歳の方というのは、介護保険料もかかりますので、そういった年齢層の方だとして、協会けんぽ東京支部で賃金月額が90000円だとすると、介護保険料込みの健康保険料は約5000円、そして厚生年金保険は約8000円、合わせて13000円程度、これが従業員さんの負担分です。
会社もこれとほぼ同額、同額プラスアルファですけれども、会社も負担すると、まあ折半になるというわけです。
大体保険料に関してはこのぐらいかかります、と保険料のお話もしてあげられると、その従業員の方も判断しやすいのではないかなと思います。
いかがでしたでしょうか。
社会保険の適用拡大、今まで第一基準を満たさないで社保加入の対象ではなかったパートタイマーの方々、いよいよこの第二基準に当てはまると社保加入になりますよとお話しすると、「社保加入は絶対嫌!」と拒絶反応を示される方がいらっしゃるのですけれども、社会保険料は確かに負担しなければなりませんが、半分は会社が負担してくれるわけですし、その払う社会保険料は捨てているお金というわけではなく、将来もらう年金額が増えたり、障害厚生年金なども受けられるようになる、そして出産手当金や傷病手当金も受けられるようになります。
ですから、「社会保険というのは健康保険も厚生年金保険も保険ですから、何かあったときには、よりワイドな保障が受けられるようになるのですよ」と、「そういった保険に加入できるようになり、しかもその保険料は会社が半分持ってくれるとこういうことなのですよ」と、こういう社会保険のメリットもしっかりとパートタイマーの方に伝えてあげられると良いのではないかなと思います。

今回は、「週20時間以上のパートタイマーも社会保険に加入です!」についてお話をしました。
少しでも参考になれば幸いです。
執筆者

志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員