副業先でケガをした従業員が、労災の書類を書いて欲しいと言ってきた場合、本業の会社で書類を作成する必要はあるのでしょうか?社労士が解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「副業先でケガをした従業員の労災手続きは?」についてお話をします。

このようなご相談をいただきました。ちょっと読んでみます。

「副業先で仕事中に怪我をして仕事を休んでいる従業員が労災の書類を書いてほしいと言ってきました。こちらでも書かなければいけないのですか」

このようなご質問ですね。本業の会社の方のご質問だと思いますが、その会社の従業員の方が別の会社で副業している、そっちの副業先の方で仕事をしていて怪我をした→仕事を休まなきゃいけなくなった→両方の会社を休むわけですね。この時に労災の書類っていうのはその副業先で書けばいいのではないか、その従業員がこちらの方に書類を書いてくださいと言ってきた、何でそういうのを書かなければいけないのですかと、こういうご質問ですね。これはもう結論を先に言ってしまいますと書いてください。書いてあげる必要があります。これはどういうことなのか、今日はこれからその話をしていきます。

まずですね、仕事中に怪我をした場合に、これは業務災害ということですけれども労災保険から給付が受けられます。休業補償給付といって、最初の3日間待機があり、待機の後4日目以降には労災保険から休業補償給付と言って収入のおよそ8割が支給されると。これは正確に言うと平均賃金を計算する等あるのですが、ここではその話はちょっと省略します。大体収入の8割は労災保険から貰えるものだと、こういう風に思ってください。

ここに書いてあったケースですね。

  • 副業なし

1か所の会社で働いている方が月収35万だったとします。そうするとその方が仕事中に怪我をして仕事休む場合

  35万円/月 × 0.8 = 28万円/月

↑この28万円が労災保険の方から休業補償給付として貰えると、こういうことになっているわけですね。

大きいですよね、28万円。ちょっと減ってしまっているとはいえ働いてないわけですからね、仕事してなくて治療や療養している間この28万円が労災保険から受けられるということでありがたいですよね。

  • 副業あり(改正前)

今回はある会社で働いている方が別のところで副業、まあアルバイトか何かやっていたケースです。

まず改正前、以前はどうだったかというところをちょっとまず説明します。 

    本業30万円/月 

      + 

    副業5万円/月 × 0.8 =4万円/月

本業と副業合わせて35万円ですね。だけどその35万円の8割が貰えるかというとそうではなかったのですね。あくまでこの副業先で怪我をしたのだったら副業先の月の収入5万円の8割、つまり4万円ですね、これが貰えるよと。副業先で怪我をして働けなくなったわけですから本業も副業も休むわけなのですが仕事ができないわけですから、本業の収入も途絶えるわけですが怪我をしたのが、たまたま副業先で怪我をしたのだったら、その副業先の収入の8割の4万円しか貰えないと。休んでいる間ずっとこの4万円が支給されると。ちょっとこの場合はこの方本来収入が35万円あったものが副業先で怪我をした→働けなくなった→労災から給付を受けられるけど月4万円ぐらいしか受けられないとちょっと保護に欠けるのではないかということで法改正がありました。副業されている方が増えてきた最近でこれじゃあちょっとまずいだろうということで次のようになりました。

  • 副業あり(令和2年9月法改正)

本業30万円/月 

   +               × 0.8 =28万円/月

副業5万円/月

2020年9月に法改正がありこういう風に変わりました。同じようにこのメインの会社で月30万円の収入があり副業先においてアルバイトで稼いで合計35万円の人、こういう人が副業先で怪我をした場合副業先での収入の8割だけでなくて、まず本業と副業を合算すると。この合算した金額の8割つまり28万円が受けられるようになっています。法改正により以前こうだったものがこういう風に。まあ良かったですよね。そうするとまあ28万円受けられるので療養中の所得補償というのがしっかり補償されるということですね。こういう風に2か所で働いている方を複数事業労働者といいます。複数の事業場で働いて収入を得ている労働者の方、複数事業労働者こういった方が片方の会社で怪我をしたといった場合、そっちの収入だけじゃなくて両方の収入を合算してそれの8割が受けられるようになっていると。そうするとその副業先で労災の書類を作るわけなのですが、その本業のメインの会社の収入の情報っていうものは副業先は分からないので、休業補償給付の請求書には別紙というのがあって、そこには賃金の情報とか書いてあるのですが、本業はその別紙を書いてあげる必要があるんですね。それを渡してあげると。そして初めて合算して申請ができるということなので、このメインの会社の方も休業補償給付の別紙に賃金額の情報を記載してあげる必要があると。おそらくこのご質問のケースでは従業員さんが持ってきたのはその別紙を書いてくださいと言ってきたと思うので、それはまあ書いてあげなきゃいけないですよね。まあ建前上は労災の申請っていうのは本人がやることにはなっていますけれど現実はやっぱり難しいので実際には会社さんの方でやってあげるってことが一般的だと思います。まあ副業先の会社の方で申請をやってあげるにしてもメインの会社の方でも賃金額の情報を書いて渡してあげなければいけないというのが今回の結論です。

でもいやいや、従業員が勝手に副業をやっていたんだ、勝手にやっててそこで怪我をしたから書類を書いてくれはおかしいじゃないかと。認めていない副業先の怪我については書かないよというわけにはいかないんですね。それはその会社のルールに則った副業をしていなかったのであれば懲戒処分なりなんなりすればいいと思います。それはそれとして。やはりこの申請っていうのはできるわけですから、そういう場合でも賃金額の情報っていうのは書いて渡してあげる必要があるということなんですね。

はい、いかがでしたでしょうか。最近まあ副業っていうのは増えてきていますよね。厚生労働省のモデル就業規則なんかでも副業禁止じゃなくて副業を許可するような作りになってます。世の中全体副業を認める方向になっていますのでこういうケース増えるんじゃないかと思うんですよね。今日の話ちょっと覚えていただければと思います。

というわけで今回は「副業先でケガをした従業員の労災手続きは?」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

プロフィールをもっと見る>>

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です