新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類が5類へ引き下げとなりました。感染した社員への対応はどのようにすれば良いのでしょうか?休業手当の支払いなど、社労士が解説します。

新型コロナ感染症の感染症法上の分類が2類相当から5類へ引き下げられました。今後コロナウイルスに感染した社員さんへの会社の対応はどのようにすれば良いのでしょうか、これについて今回はお話をしていきます。

「就業制限」から「自粛推奨」に。休業手当の支払いが義務に!

まず、今までコロナウイルス感染症は、感染症法上の分類は新型インフルエンザ感染症という区分だったんですね。いわゆる2類相当というような区分でした。これが令和5年5月8日から5類に引き下げられました。この分類は季節性インフルエンザと同じ区分なんです。この季節性インフルエンザというのは、新型インフルエンザではなくていわば普通のインフルエンザということになります。今まで新型コロナウイルスは行政による就業制限がありましたよね。それが5類に引き下げられて就業制限はなくなりました。ただし国は、発症後5日間経過かつ症状軽快後24時間経過までは外出を自粛してくださいというようなことを推奨しています。ただし最終的には個人の判断ということになります。

もし新型コロナウイルスに感染した社員の方が、体調はそんなに悪くないから出社して仕事をしたいです、と言ってきた場合に、会社の方で他の社員への感染なども防止したいということで出社しないでほしい、自宅待機してください、と言ったときに休業手当の支払いが必要かどうかなんですけれども、今までは行政による就業制限がかかっていたわけですから、会社の判断で自宅待機しなさいと言っているわけではないので、休業手当の支払い義務はなかったんですね。

ところが5月8日以降はこの就業制限がなくなりましたので、自粛を推奨する、というあくまで推奨ですから、最終的には本人が判断して体調大丈夫そうだからマスクして会社行って仕事したいです、と言ってきたものを会社の方で出社しないでくれと言った場合には、これは基本的には休業手当の支払いが必要になると思います。

ただ、この辺りは今後の感染拡大の状況などにもよって変更される可能性もありますので報道などご注意いただければと思います。

この発症後5日間経過の考え方ですが、これは今までの就業制限と同じなんですけれども発症の翌日から数えて、ということになります。発症日を0日として発症日の翌日を1日目としてそこから5日間数えるということになります。症状軽快というのは、高熱とか喉の痛みとかが治まったらという意味になります。

ですから、この休業手当の支払い義務が今まではなかったものが基本的には休業手当の支払い義務があるという状態になったと、こういう点が変わってきたわけですね。
それを踏まえて、感染した社員さんへの対応は次のようになります。

感染した社員さんへの対応は?

ケース①会社の判断で自宅待機・・・休業手当 平均賃金の6割以上

新型コロナウイルス感染症の陽性の方で、症状が軽く(中には無症状の方もいらっしゃるようですけれども)、体調的には全然問題ないし熱もそんなに出ていませんので仕事したいですと言ってきた場合に、会社の判断でほかの社員に移すといけないから休んでください、と言った場合には、休業手当の支払いをすることになります。休業手当は平均賃金の6割以上の支払いが必要となります。

ケース②労務不能の場合(健保加入者)・・・傷病手当金 休業4日目以降 日額3分の2

これは健康保険に加入している人に限りますけれども、新型コロナウイルスにかかって症状が重く仕事ができない状態にあるといった場合には、健康保険傷病手当金の申請をすることができます。ただしこの傷病手当金というのは3日間の待機、というのが必要なんですね。連続した3日間のお休みがあって休業4日目以降から初めて支給されるということになります。おおよそ日給額の3分の2程度という風に考えていただければ良いかと思います。傷病手当金の申請をする際には、こういった病気のために仕事をすることができない(労務不能である)という証明をお医者さんに書いていただく必要があるんですけれど、新型コロナウイルス感染症に感染しているケースにおいては、おそらくお医者さんの方でこの労務不能の証明は書いていただけるんじゃないかなと思います。
ただ、この傷病手当金を申請しない方も結構いらっしゃいます。というのは、新型コロナにかかって会社を休む日数は一般的にはそんなに長くないんですね。3日間の待機中は支給されませんので休業4日目から初めて支給されしかも3分の2しか出ないなら申請しない、というケースもあります。もっともその待機の3日間は年次有給休暇を使っていただくことは可能なんですけれどね。
中には新型コロナにかかってこじらせてしまって療養が長期化するケースもあると思いますので、そういった場合にはこの傷病手当金は有効な手段になるかと思います。

ケース③有休が余っている・・・有給休暇 通常の賃金 強制できない

年次有給休暇が結構まだ残っているという場合にはそれを使っていただくというのが一つの方法になります。年次有給休暇を取得した時には、通常の賃金を支払われることが多いかと思います。ただしこの年次有給休暇の取得というのは、会社が強制することはできませんので、従業員さんが自分の意志で取得するということになりますけれども、発症後5日間の外出自粛が推奨されていることなどを引き合いに出して会社の方から提案するというようなことは差し支えないかと思います。

ケース④本人が仕事をしたがっている・・・在宅勤務 通常の賃金

どうしてコロナにかかっているのに仕事をしたいと言うかなんですけれども、もしその方がもう有給がないといった場合、有給を使うことができないわけですよね。傷病手当金の申請をするにしても最初の3日間は無給になってしまうということですね。それから仮に休業手当をもらったとしても平均賃金の6割ですから丸々もらえないということなので収入が下がるのが嫌だ、お金稼ぎたいというような理由から、大丈夫です働かせてください、というような人もいるかもしれません。あるいは責任感がすごく強くてどうしても今このプロジェクトには自分が必要なんだ、自分が仕事を休むわけにはいかないんだ、と会社や同僚に迷惑をかけてしまうので仕事をします、というような方もいらっしゃるかもしれません。会社としては休業手当6割払うので休んでくださいと言いたいところですけれども。本人が、大丈夫です休みたくないんです、と言ってきた場合には、環境が許せば在宅勤務・テレワークをしていただくというのがいいのかなと思います。在宅勤務すればこれは通常通り勤務しているわけですから、所定の賃金が支払われ収入が減ることはないということになります

あとは普通通り、体調悪いので欠勤します、と有休も何も使わないで普通に欠勤した場合には、不就労控除という形で賃金が減額される、あるいはうちの会社は完全月給制だよ、という場合には休んでいただいても給料は減らない、というケースも中にはありえるかと思いますけれども、そういったケースというのは例外的で、大概はケース①~④といった処理になるのかなと思います。中でもやはりケース③有休を使う・ケース④在宅勤務あたりでの対応が実際には一般的になるのかなというふうに思います。

新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類が5類に引き下げられたと言ってもウイルスの感染力が弱まったわけではありません。いくら季節性インフルエンザと同じになったといってもこの季節性インフルエンザは非常に感染力の強い病気ですから油断はできないわけです。いろいろなことが平時と同じになっていくのは喜ばしいことではありますが、やはり引き続き新型コロナウイルスやインフルエンザこういったものが職場で感染が広がらないよう十分な注意が必要かと思います。

今回は「新型コロナが5類に引き下げ。感染した社員への対応は?」についてお話をしました。これからの労務管理に少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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