従業員が副業・兼業を行う場合、労働時間の管理はどのようにすればよいのでしょうか?いくつかの具体例を挙げて、社労士が分かりやすく説明します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「副業先の労働時間も通算が必要か?」についてお話をします。

今回のタイトルに通算が必要か?と問いかけるような形式で記載していますが、もし通算が必要ないなら今回の動画は不要ですよね。結果から申し上げると通算が必要です。

しかし事業場の解釈について意見が分かれる部分です。例えばある会社の本社で働き、A支店で働き、B営業で働いた場合に労働時間を通算するのは当然のことだと思います。そして経営が違う会社、別の会社で働いた時間も通算するのか?という点ですが、あくまで同じ会社の中での話で別の会社で働いた時間というのは通算しないという説が実はあります。しかし厚生労働省の出しているガイドラインには別の会社で働いている場合でも通算すると示されていますので、これは通算すると考えるしかありません。

この通算とは労働時間を足していくということですが、足していく順番が大事になってきます。どういう順番で足していくのか、A事業場・B事業場・C事業場でどのような順番で足していくのかが問題になります。これはどういうことかと言うと、A事業で5時間、B事業場で5時間働いたとすると合計10時間働いていることになります。10時間ということは法定労働時間8時間を2時間オーバーしていますので、その2時間については割増賃金の支払いが必要になります。なおかつ法定時間外労働させるためには36協定を締結・届出してその時間の枠内でしか法定時間外労働をさせられないわけですから、A事業場で働いた5時間のうちの2時間が法定時間外労働なのか、それともB事業場で働いた5時間のうちの2時間が法定時間外労働になるのかで、その割増賃金を払う義務はどちらにあるのか、どちらが36協定を出していないといけないのかという問題が発生します。

今の話を図にしました。

①②は足し算の順番です。A事業場で働いた5時間を先にカウントし、B事業場で働いた5時間を2番目に足し算します。この順番でやるとすれば2時間の法定時間を上回った部分については後からカウントされたB事業場の5時間の中に含まれるのです。よって割増賃金の支払義務を負うのはB事業場となります。このように足し算の順番が大事になるという意味をご理解いただけたと思います。

別のさまざまなケースについて、どういう順番で労働時間を足していけば良いか説明します。そしてその足し算の順番に関してはルールがはっきり決まっています。

●所定労働時間:契約の先後

所定労働時間は契約書上の決められた労働時間です。本来の朝の9時から夕方の6時で休憩1時間と決まっています。その場合の所定労働時間は8時間となるわけです。8時間だけではなく、契約によってそれぞれ時間が異なりますが契約書に記載されている労働時間のことを言います。その所定労働時間を足していくときに契約が先か後かで決めます。どちらが先に雇用契約を結んだのか確認し、先に働き始めている事業場、それを先にカウントします。後から労働契約を結んで後から働き始めた事業の時間は後から足します。こういう順番でカウントしますということが決まっています。

●所定外労働時間:労働の先後

所定外労働時間というのは先ほど説明していた所定時間をオーバーして働きます。つまり残業です。その本来の所定労働時間を超えた所謂残業時間を通算する時には労働の先後で通算します。どちらが先に働いたか、先に労働した方をカウントします。後から労働した方を後からカウントします。

ですから、この所定労働時間をカウントする順番と所定外労働時間、残業時間を通算する時のカウントの順番が違います。ここが少し話のややこしいところです。

このルールは説明した通りで、これから具体例に当てはめて説明していきますが、その前に少し整理しておきたいことがあります。それは所定外労働時間と法定時間外労働時間の区別です。労働基準法では1日8時間または週40時間を超えて原則働かせてはダメで、36協定の届け出・締結を行えばその範囲内で法定外労働をさせることができるのですが、所定外労働時間というのは契約で決められた時間をオーバーしたら全部所定外労働時間なのですが、その所定外労働時間でも8時間オーバーの部分はただの所定外労働ではなくて法定時間の8時間を超えていることになるので、法定時間外労働となります。

ここで問題になるのは、この法定労働時間がどこに発生してしまうのかということですが、その法定時間外労働が発生した事業場が36協定や割増賃金の支払いの義務を負うということになります。これから説明していく部分は所定外労働時間と法定時間外労働時間をしっかり区別してください。

ではここから4つのケースについて説明していきます。全て共通しているのはA社が先に契約をしてB社が後から契約しています。これを前提に話を進めていきます。このタイトルには副業先の労働時間を通算するのか?と書きましたが、本業か副業かという区別は全然出てきませんでした。通算のルールの中に本業が先とか副業が後などそういう考え方は一切出てきません。あくまで契約が先か、もしくは労働が後かで判断するということですので、どちらが本業でどちらが副業かということは問題になりません。ですからこのケースの説明では本業・副業というのは置いておいて契約が先か後かという切り口で見ていきます。そして数字の①や②というのは足し算の順番です。そして()内の数字は働いている時間数、赤で囲っている部分は法定時間外労働時間になっていて、青で囲っているところは所定外労働時間ということになります。

それでは1つずつ見ていきましょう。

A社では朝の7時からお昼の12時まで5時間の労働契約を結んでA社で先に働き始めていました。ケース①と②ではこの所定外労働時間がないケースとなります。所定外労働時間があるケースは③と④で説明します。そしてB社の契約は14時から18時の4時間働くという雇用契約を結んで働いているとします。そうするとどういう順番で足すにしても合計9時間になります。合計9時間ということは先ほどお伝えした法定労働時間8時間を1時間超えて働いているので必ず1時間の法定時間外労働が発生します。それがどちらに発生するのかということです。まず契約したA社の5時間を先にカウントし次にB社の4時間を足すことになります。それで合計9時間ということはその後から足したB社の4時間の中の最後の1時間が法定時間外労働になるというわけです。よってB社は36協定を締結する必要があり、この法定時間外労働の1時間について原則1.25の割増賃金の支払いが必要になります。注意していただきたいのはこのケースの場合、所定外労働時間がありません。A社でもB社でも予め決められた5時間働いています。どちらも残業は一切していないけれども通算した時に8時間オーバーの部分が出てくるということで、そこが法定時間外労働になります。

こちらのケースは先に契約したのはA社で労働時間は14時から19時までの5時間働く雇用契約です。次にB社でも働き始めて雇用契約は8時から12時です。こちらのケースの場合でも残業はないので契約の先後で考えるため計算の順番としてはA社+B社です。そうするとB社の最後の1時間が法定時間外労働になります。よってB社が割増賃金の支払いが必要になります。

ケース①と②について所定外労働時間は発生していませんが、労働時間は通算すると8時間オーバーしてしまうので法定時間外労働が発生しますので注意してください。説明をする便宜上、5時間や3時間といった労働時間に設定しましたが、実際には違うと思います。例えば会社員の方が、会社勤めをしていて朝の9時から18時までの8時間労働というのは普通の事かと思います。この時点で法定労働時間の8時間は働いていますが、少し収入を増やそうとして夜どこかでアルバイトをしようとした場合に夜の19時から2~3時間程度働くといったケースが多いのではないでしょうか。そうすると足し算の順番の話に戻りますが、何度もお話したように契約が先の方をはじめにカウントしてから契約が後かの方が次に足すことになりますので当然会社員として勤めている会社の8時間というのが先にカウントされ、その後に夜のアルバイト分を足すことになります。よって既に法定労働時間を働いた後でのアルバイトとなるので夜のアルバイト分は何時間であろうと全て法定時間外労働となります。夜のアルバイトの給与計算は注意が必要となります。これが仮に朝のアルバイトだったとしても、先に契約しているのは会社員で勤めている会社なので先にアルバイトで働いている時間の方が早くても割増賃金の支払い義務が発生するのは朝のアルバイトとなります。この考え方のルール上本業・副業という区別はないですが、現実問題においては元々本業で会社員の方は既に8時間労働していて、さらに朝か夜にアルバイトとして副業をしているケースが結構あるかと思います。その場合には副業の方で1.25%の割増賃金の支払いが必要になることを覚えておいてください。

前提としてケース③と④は所定外労働時間があります。所定外労働時間というのは本来決めた契約の時間をオーバーして働くということで、言ってみれば残業時間ということです。ケース③では朝の7時から10時までの3時間働くという労働契約を結んで先にA社で働いていて、B社でも15時から18時までの労働契約を結んで働いています。ある日、A社でもB社でもそれぞれ所定外労働が発生しました。A社では10時までの契約ですが残業が発生し12時まで働き、B社では18時までの契約が残業のため19時まで働いたというケースです。図で言うとA社は青で囲っている10時から12時の部分が所定外労働時間です。B社では赤で囲っている18時から19時までの部分が残業時間となりますが、計算してみるとA社では5時間、B社では4時間労働しています。単体で見れば法定時間外労働は発生していませんが、通算することによって合計9時間となりますので1時間分は法定時間外労働が発生していますが、ではそれはどこに発生するのかということになります。また足し算の問題になりますが、まず所定労働時間を足します。次に所定外労働時間を足すわけですが、これは労働の先後で考えるため先に労働しているA社から足していきますが、そこで既に8時間となりました。そうすると次に+B社の所定外労働時間分の1時間=法定時間外労働となるわけです。よってB社はこの1時間に対して割増賃金の支払いが必要となります。

こちらは③と反対でB社で先に働くケースです。契約はA社の方が先ですが、14時から17時の3時間働くという労働契約を結んでいて、B社では朝の7時から10時まで3時間働くという労働契約です。所定労働時間も考慮し足し算をしていくと図の通りに①+②+③+④をするわけですが、④は所定外労働時間且つ法定時間外労働になります。よってA社における18時から19時の1時間分に関してはA社が割増賃金の支払いを負います。

いかがでしたでしょうか。かなりややこしい考え方になっているかと思います。この通算の考え方ですが、それぞれの会社でお互いの会社の労働時間を把握していないと通算が不可能です。それをどうやって知るかというのは労働者の方が正しく申告する以外に方法はありません。よって通算が厳密に行われていないケースというのはとても多いと思います。しかしそこに対して厳しく指導・取り締まりが行われている状況でも現状ありません。ルールとしては今まで説明した通りですが、実際にこれをやるとなると非常に難しい部分があるということで、今後予定されている労働基準法の改正の中でもしかすると通算という考えが無くなるという風に変更される可能性があります。もちろんその法改正があった場合には別動画にてアップしていきますので、その際は確認いただければと思います。

今回は「副業先の労働時間も通算が必要か?」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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