2025年4月から、一定の条件で再就職したときに支給される手当の一部が廃止・減額されます。その内容をご紹介するとともに、なぜそのような改正が行われるのか、社労士が解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は、「2025年4月~、就業促進手当が廃止・減額されます!」についてお話をします。

2024年の5月に雇用保険法が改正されました。いくつかの改正点があるので順番にお話ししているのですけれども、今回は、2025年4月から就業規則手当が廃止あるいは減額されますというお話をしていきます。

まず、就業促進手当とは一体何かと言いますと、これは雇用保険からの給付の一つで、就業を促進する手当のことです。簡単に言えば、失業手当(正式には基本手当)の受給資格者(基本手当を受ける資格を持っている人)の早期の再就職を促すための手当です。

失業手当には所定給付日数といって、90日ですとか、勤続年数が長い方ですと120日といったように、失業手当を受けられる日数というものがあります。

そして中には、失業手当の給付期間中に再就職をしてしまうと、もらえるはずの失業手当が打ち切られてしまうわけですから、「もったいない」と失業手当をもらいきってから再就職しようと考える方もいるわけです。失業手当というのは、失業者の求職中の所得補償であり、「所得補償をしますので頑張って職探しをして、早く再就職して下さいね」という為のものであるので、失業手当があるが故に働かなくなってしまうのは本末転倒です。

ですから就業促進手当は、それを避けるための、早期の再就職を促進するためのインセンティブなのです。就業促進手当は、仕事についたらもらえるお金だということになります。

この就業促進手当には主に3つがあります。

正社員など、1年を超える雇用見込みがある安定的な職に就いた場合は①再就職手当(支給残日数1/3以上)と②就業促進定着手当を、アルバイトなどの1年を超える雇用見込みがない短期的な職に就いた場合は③就業手当を受けられるということになります。

①再就職手当

基本手当日額×60%(70%)×支給残日数

ただし、基本手当日額(基本手当1日分の額)には上限額があります。

また60%と70%、割合に違いがありますが、支給残日数が1/3以上の方は60%、支給残日数が2/3以上残っている方は70%に引き上げられるわけなのです。

それでも中には、失業手当の満額と比べると目減りしてしまうことを嫌がる方がいて、その再就職先の賃金にもよりますが、転職すると一時的にでも給料が下がってしまうことが結構ありますので、「賃金低下した上に失業手当まで下がるのか」と思われる方もいらっしゃいます。

そこで、②の就業促進定着手当があるわけです。

②就業促進定着手当

就業促進定着手当というのは、再就職手当を受けた人が、1年を超える雇用見込みがあるような安定的な仕事に就き、そのまま6ヵ月以上継続的に雇用されて、なおかつその賃金が再就職以前と比べて低下している場合に受けられる手当です。以前の賃金より減ってしまった目減り分を補填するものですね。

いくら受けられるのかと言いますと、

基本手当日額×40%(30%)×支給残日数です。

先ほども説明しましたが、基本手当日額(基本手当1日分の額)には上限額があります。

再就職手当では、基本手当日額×60%(70%)でしたので、再就職手当が60%の方は就業促進定着手当の割合は40%となり、また、再就職手当が70%の方は就業促進定着手当が30%となりますので、それぞれを足すとちょうど100%になります。差額を補填するようなイメージです。

就業促進定着手当は、「この就業促進手当をちゃんと支給しますから、仮に賃金が低下するようなことがあったとしても、出来るだけ早く就職をして下さい」というようなインセンティブとして用意されています。

次に、アルバイトなどの一時的なお仕事に就いた方に対しては、この再就職手当は出ませんから、その代わりに就業手当が出ます。

③就業手当

就業手当というものは、もらえる条件として、支給残日数が1/3日以上かつ45日以上残っていることが条件となります。

先ほどは45日以上という条件はありませんでしたが、就業手当には1/3日以上かつ45日以上という条件があります。

この条件を満たした上で、短期的なお仕事に就いた場合に、

基本手当日額×30%×就業日(アルバイトをした日)ごとに受けられる手当になります。

改正点と理由

さて、今回の法改正でどこが変わるかと言いますと、まず、①再就職手当について変更はありません。

次に、②就業促進定着手当では、先ほど「基本手当日額×40%(30%)×支給残日数」がもらえるのだと説明しましたが、2025年4月以降は一律20%に減額されます

そして、③就業手当は廃止されてしまいます

なぜこういう改正が行われるかですが、先ほどの説明の通り、就業促進定着手当は「就業促進定着手当で下がった分の給料を補填することで、賃金が下がったとしてもできるだけ早く就職してくださいね」というインセンティブです。

インセンティブというのは、こういう行動をとったときにこういうお金をあげますよ、という誘導であり、餌で釣るようなものですが、今の時代どうでしょうか?
これからどんどん労働人口が減っていきますので、どこの会社も人材不足が深刻になってくるし、求人はたくさん出てくることが予想されます。

別の回でも説明していますが、教育訓練の制度も充実して、雇用保険でお金を出してくれてスキルアップができるようになりますので、時代の流れは、「スキルアップしてより賃金の高い仕事についてください」と、こういう風な方向に動いているわけです。

その中で、「賃金が低くても~」というインセンティブは以前ほど強くなくなっています。インセンティブを40%も出してしまうと、賃金低下する仕事でもいいやとどんどん再就職する人が増えてしまいます。そうではなくて、スキルアップして高い賃金の会社に再就職してほしいということで、給付率が減額されたということです。

そして、③就業手当はアルバイトなどの短期的なお仕事に就いたとき、1年以上の長期の雇用見込みがないようなお仕事に就いたときにもらえる手当なのですが、今の時代はどこも人手不足であり、求人もたくさん出ていることから、頑張って探せば1年以上の雇用見込みのある会社に就職できるという考えの下に、「就職にスキルアップが必要であれば職業訓練を受けて、アルバイトではなく長期的なお仕事に就いてください」という方向に流れ、あえてインセンティブを用意する必要が薄まってきていることが、廃止の要因の1つです。

そして、もう1つの要因は、労働者からの人気がなかったことです。なぜかというと、30%しかもらえないという給付率の低さです。求職活動は必要ですが、就職できていない状態であれば基本手当が満額受けられるのに対して、アルバイトの内容にもよりますが、アルバイトをした日に30%しか受けられないということで、あまり人気がありませんでした。

利用者も少なかったので、時代の流れもあり、この制度は2025年4月で廃止されるというわけです。

少し注意していただきたいのですが、今回は、この雇用保険法の改正によって就業促進手当の廃止・減額される部分の説明がメインです。ですから、この各手当の内容に関する細かい説明というのは今回説明していませんので、それぞれの手当の様々な条件については、概要欄にリンクを張っておきますので、詳しくはそちらをご確認いただければと思います。

要点としましては、就業促進定着手当の給付率が20%に引き下げられます。

そして就業手当が廃止されます。

再就職手当は変更なし、ということです。

今回は、「2025年4月~、就業促進手当が廃止・減額されます!」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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