こんにちは。社会保険労務士の志賀です。
今回は、『2028年10月~雇用保険料の適用拡大!』についてお話をしていきます。
今年の5月に雇用保険法が改正されました。いくつかの改正点があるのですが、一度にはお話しできないので順々にご紹介していきたいと思っています。
改正されたなかで、最も影響が大きいのではないかと思われるのが「適用拡大」です。
これは2028年、令和10年10月から改正されます。
少し先のお話ではあるのですが、影響が大きいテーマですので、まずはここからお話していきたいと思います。
まずは現在の雇用保険の加入条件についてですが、3つの条件を満たすと入れる、という事になっています。
①31日以上の雇用見込みがあること
②週の所定労働時間が20時間以上であること
③学生でないこと
この①の「31日以上の雇用見込み」というのは、契約期間が31日未満であって更新されないことがはっきりしている場合ですね。また、更新の有無が書いていなかったとしても、同じ様な雇い方をしていた人が更新していた実績があるような場合には、31日以上の雇用見込みがあるという風にみなされます。ですから、実質的にはほとんどの方は31日以上の雇用見込みがあるのではないでしょうか。
そして③の「学生でないこと」、これは昼間学生ではないということです。休学中や夜間学校に通われている方は別として、昼間に大学に通っている学生さんは雇用保険に入れません。
この①と③は改正後も変わりません。変わるのは、②です。
変更その1
「週の所定労働時間が20時間以上であること」の「20時間」が「10時間」に変わります。
10時間ってかなり短いですよね。1日5時間で2日間働けば週10時間になってしまいますから、そういった方は今まで雇用保険に入れなかったわけなのですが、改正後は入れるという事です。ですから、改正後はほとんどの労働者の方が雇用保険に加入することになるという風に考えられます。いま、非正規の短時間労働者の方がとても増えていますから、そういった方々へのセーフティネットを拡充するためにこういった変更が行われている、といったわけなのです。
さて、10時間というと土日のアルバイトでもすぐに達してしまうような時間数であるので、正社員として雇用保険に入って働いている方が土日に副業としてアルバイトをした場合、アルバイト先でも雇用保険に入れるかというと、それはできません。雇用保険というのはメインの会社だけで入るものなので、メインの会社がある方は、アルバイト先では週に10時間働いたとしても入ることはできない、というわけなのですね。
適用拡大は会社にとって影響が大きい、保険料の負担が馬鹿にならないという方もいらっしゃいますが、ここで保険料を見てみましょう。
雇用保険の保険料は毎年見直しがあります。事業によっても違いがあるのですが、令和6年度の一般企業の場合(建設業や農林水産業などではない場合)、従業員の負担分は0.6%、会社の負担分は0.95%ということなので、社会保険(健康保険や厚生年金保険)の保険料に比べると、そんなに高くはないですね。
ですから、月に5、6万円稼ぐような方を雇用保険に入れたとしても、本人負担分も会社負担分も数百円ということなので、保険料負担だけで考えるとそんなに大騒ぎをするようなことではないのかな、という風に思います。
変更その2
こういう変更が行われて、短時間労働者の多くの方が雇用保険に加入することになり、それに伴ってもう1つ変更されることがあります。
雇用保険に加入している方は失業した際に、失業給付(正確には基本手当)をもらいます。
その失業給付を受けるためには条件がいくつかあり、そのうちの1つに、
・離職前2年間に被保険者期間が通算12カ月以上あること
という条件があります。
こういった条件を満たしていなければ、失業給付というのは受けられないのですね。
この「離職前2年間に被保険者期間が通算12カ月以上」というのは自己都合の場合であって、会社都合の場合(解雇など)は1年間に6ヵ月の被保険者期間があればよいということになっています。
この被保険者期間というのは、
「賃金支払いの基礎となった日数が11日以上」または「労働時間が80時間以上」
のどちらかを満たすとその月を被保険者期間の1カ月、としてカウントします。
なので、離職前の2年間の中で、「賃金支払いの基礎となった日数が11日以上」または「労働時間が80時間以上」ある月が12カ月以上あれば、失業給付の受給条件の一つを満たす、という風になっています。
例えば、その週の所定労働時間が10時間、例えば1日5時間で週2日働くという方は、この「11日以上」や「80時間」という条件を満たさない訳ですから、ここを変えなければ、雇用保険は入れるけれど失業保険はもらえないということになってしまいますので、ここも連動して変更されています。
「賃金支払いの基礎となった日数」に関しては「11日以上」から「6日以上」に、「労働時間」に関しては「80時間」が「40時間」に改正されます。
賃金支払いの基礎となった日数、というのも分かりづらいかもしれませんので、要は働いた日数とか労働した時間、という風にここでは考えて頂ければよいかと思います。
ただし、今まで週の所定労働時間が20時間以上無くて雇用保険に入っていなかった方が受けられた制度というものがあり、それが「求職者支援制度」というものなのです。
この求職者支援制度というものは、雇用保険に入っていない方が離職した場合などに、月に10万円の給付金をもらいながら無料の職業訓練を受けられる制度です。
それが今後どうなるかと言いますと、今回の改正によって新たに雇用保険に加入した方、あるいは求職者支援制度の受給資格を得た方は引き続き使えるという事になっています。
ただ、この求職者支援制度は、受給する為には他にも色々と条件はあるので、それはまた別途見て頂く必要があります。
いかがでしたでしょうか。今回はいくつかあるルール改正の目玉、最も大きい改正である適用拡大についてお話をさせて頂きました。
先ほど、保険料自体はそこまで高くないですよ、というお話はさせて頂きましたが、会社にとってはこの保険料のコストもさることながら、事務手続きの手間がかかります。
こういった短時間のアルバイトやパートの方を大勢雇っている事業所では、この条件を満たす方が入ってきたら資格取得の手続きをしなければいけないし、その方が退職したときには資格喪失と離職票なども作成して退職の手続きを取らなくてはなりません。離職票、作った方もいらっしゃるかと思いますが、かなり面倒くさいですよね。
こういった事務手続きの手間が非常に増えると、ここが少し心配になるところなのかなという風に思います。ただ、改正はまだ先ですので、今から少しずつ心の準備をして頂ければと思います。
いかがでしたでしょうか。
今回は、『2028年10月~雇用保険料の適用拡大!』についてお話をしていきました。
少しでも参考になれば幸いです。
執筆者
志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員