2025年4月から、自己都合退職の失業給付(基本手当)の給付制限期間が2か月から1か月に短縮されます。なぜ、このような改正が行われるのか、また、その結果どういうことが起きると予想されるのか、そして、会社はどのような対応をとれば良いのか、社労士が解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は、「2025年4月から失業給付の給付制限が1ヵ月に短縮されます!」についてお話をします。

今年の5月に改正雇用保険法が成立して、いくつかの改正点があるのですが、その中でも今回は、「失業給付の給付制限が4月から短縮される」というお話をしていきます。

まず初めに、どのような改正が行われるかについて説明をし、その後で、今回なぜそのような改正が行われるのか、次に、そうするとどういうことが起きるのか、最後に、会社はどのような対応をするべきなのかについてお話をしていきます。

改正の内容

それでは、改正の内容です。

失業給付(正式には「基本手当」)受給の流れ 自己都合の場合

①離職

会社を退職します。

②求職の申し込み

ハローワークに離職票を提出し、求職の申し込みをします。そうすると、ハローワークでは受給資格の決定をしてくれます。

求職の申し込みには離職票の提出が必要になる為、会社は出来るだけ早く離職する労働者の方に離職票を渡してあげるべきですし、なかなか離職票が出てこない場合は会社に確認してみると良いです。

なぜなら、この手続きが遅れれば遅れるほど、この失業給付の受給が遅れていくからです。

また、受給資格の決定後、すぐに失業給付を受けられるわけではありません。

7日間は給付の対象とならない、「待機期間」があります。

③待機満了 『給付制限』開始

そして、待機期間満了後すぐに失業給付が受けられるかと言いますと、「自己都合退職」の場合は給付制限がかかり、その間は支給を受けることができません。

この給付制限、現在は2カ月間かかります。

さらに、過去5年間の間に今回を含めて3回以上「自己都合退職」をしている方は、期間が延びて、給付制限は3カ月になります。

ただし、「会社都合退職」の場合はこの給付制限は無く、7日間の待機期間が満了するとすぐに給付を受けることができます。

ここが、「自己都合退職」と「会社都合退職」の違いの一つです。

そして、この給付制限が何のためにあるかというと、自己都合退職をした労働者の中で、労働意欲が低い方の場合、失業給付に頼って再就職活動をしない可能性があると考えられるため、就業意欲の低下を防ぐために失業給付を受けられない期間が設けられています。

④給付制限終了 失業給付開始

この『給付制限』の期間が、今回の法改正で短縮されます。

どうなるかと言いますと、通常2カ月間ある給付制限が1ヵ月に短縮されます

ただし、過去5年間の間に今回を含めて3回以上「自己都合退職」をしている方は、現在と変わらず、給付制限は3カ月になります。

また、給付制限が「なし」になり、待機満了後すぐに失業給付を受けられる場合もあります

どういった場合に給付制限が「なし」になるかと言いますと、「離職期間中や離職期間前1年間に教育訓練給付金の対象となる教育訓練を受けた場合」です。

(この教育訓練給付金については別動画で解説していますので、そちらも合わせて見て頂ければと思います。)

自発的にこの教育訓練を受けた方は、自己都合退職をした場合でも、給付制限は「なし」でいいですよ、というのも今回の改正点です。

この給付制限が終わると、この失業給付が受けられるようになります。

その場合も、4週に1回の失業認定を受けていく必要があります。就職活動をしている必要があるわけですね。

失業給付というのは給付日数が定められており、自己都合退職の場合は次の通りです。

 離職時の年齢65歳未満の場合

  雇用保険の被保険者期間(在職期間)が10年未満で90日

  雇用保険の被保険者期間(在職期間)が10年以上で120日

  雇用保険の被保険者期間(在職期間)が20年以上で150日

改正の理由と今後の予想

今回、なぜこのような改正が行われたかと言いますと、一言で言えば「労働移動の促進」です。

労働移動の促進は、言い換えれば転職をしやすくするという事です。

転職するということは、会社を退職するという事ですから、退職時に次の会社が決まっていれば良いですが、そうでなかった場合に、給付制限によって失業給付がもらえない期間が長いと生活が不安になってしまいますよね。

そうなると転職を躊躇しまいます。

しかし、この給付制限が短い、または無いのであれば、思い切って転職をしてスキルアップしようかなということも考えやすくなる、という風に考えた訳ですね。

そして、なぜ労働移動の促進をしなければいけなくなったかと言いますと、これから先、労働人口がどんどん減り、多くの会社で深刻な人手不足になることが予想されるからです。

今までも、女性や高齢者を活用するための施策等行われてきましたが、それでもなお、これから労働人口は減っていきます。そうなるともう戦えないですよね。人がいなければどうにもなりません。

それでは、どこからどこへの労働移動を狙ってのことなのかと言いますと、生産性の低い会社から生産性の高い会社、競争力の低い会社から競争力の高い会社へ、労働力を移動させていくことが狙いだと言われています。

労働力は決まってしまっているので、生産性の低い企業から生産性の高い企業へ労働力が移動してくれば、生産性の高い企業の方は人手が足りることになります。生産性が低いからと言ってどんどん人がいなくなってしまっては、生産性の低い会社は困ってしまいますけれど。

ただ実際、2025年4月以降は自己都合退職が増えることが予想されます。

一般に言われている程大量の自己都合退職者が続出するかというとそこまでではないとは思いますが、教育訓練でかなりの補助を受けてスキルアップできるわけですから、今の仕事とは全く関係のない分野のスキルを身に着けて、より生産性の高い企業に転職するといったことも可能になってきます。

また、今まで給付制限期間中の収入が不安で転職することを躊躇していた方が、自己都合退職ということをしやすくなりますので、退職者が増えるということが想定されます。

会社の対応は?

それでは、会社はどの様な対応をしたら良いのでしょうか?

これは、この会社で長く続けたいと思えるようなことをしなくてはいけません

残業代を払っていないとか、法違反があるのは論外ですし、そういった会社も労働力が良い企業に吸い上げられていく方になりますので、生き残れないかなと思います。

賃金も、最低賃金ギリギリで働かせるのではなく、働きに見合った賃金を払っていく、そして賃金だけではなく、有給休暇が取りやすいですとか、福利厚生が充実している等、色々な部分で働きやすい会社、会社の目的が明確であって皆でそこに向かっていく、やりがいを感じられるといった、働き甲斐のある会社であることが大事です。 そして、そういう風に持って行かないと、自己都合退職者がどんどん出て、働きやすく働き甲斐がある会社に移って行ってしまいかねないことが、この20025年4月以降は起きてくるということなので、従業員を流出させないように、上記のような手当が必要になるというわけなのです。

今回は、「2025年4月から失業給付の給付制限が1ヵ月に短縮されます!」についてお話をしました。

少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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