こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「子育て中の年金計算が有利になる!養育特例を活用しよう!」についてお話をします。
この養育特例とは正式名称が厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例と言います。この制度は始まって10年近く経つ制度ですがあまり周知されていないようですので今回の動画をきっかけに制度について知っていただいて活用していただけると良いのでないかと思います。

厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例
3歳未満の子を養育中、標準報酬月額が養育開始月の前月よりも下がった場合、年金額の計算については従前の標準報酬月額を用いる制度
この制度は子育て中の収入低下を将来の年金額に反映させないための制度です。子育て中というのは収入が低下することがありえます。その最たるものは育児短時間勤務ですが、その他にも残業を控えて早く帰り残業代が少なくなる場合など収入が低下することが考えられます。子育てと仕事のバランスを取る際に収入が低下することが多いかと思います。収入が低下すると社会保険料も下がるのは良いですが、将来の年金額まで減ってしまいます。これは可哀想ということで、年金額の計算上を少し有利に計らってあげようという制度となります。
3歳未満の子どもを養育中ですから、子どもが産まれてから3歳になるまでのお話です。その間に養育開始月(通常子どもが産まれた日を含む月)の前月に比べて標準報酬月額が低下した場合、年金額の計算については従前の報酬月額とみなして計算してくれる制度です。1点だけ注意があり、この養育開始月の前月の標準報酬月額がなかった場合、つまり厚生年金保険の被保険者ではない場合、既に会社を辞めていた場合にはこの養育開始月の前月から12ヶ月遡ってその中の直近の厚生年金の被保険者であった月の標準報酬月額を用います。12ヶ月遡っても厚生年金の被保険者であった月がなかった場合にはこちらの制度は対象外となります。※養育開始月とは子どもを養子にした月、別居していた子どもと同居した月も含みます
それでは例を挙げて説明していきます。
〈例〉月給30万円の方の場合

こちらの図では青い線が賃金の推移のイメージ、赤い線が標準報酬月額の推移のイメージです。出産を迎え産前産後休業が終了し育児休業が始まり職場復帰という流れです。
今回のケースでは典型的な例として復帰するにあたり育児短時間勤務を利用し復帰したという前提です。保育園の送り迎えなどでフルタイム勤務が難しい場合、育児短時間勤務を利用する人が多いかと思います。そうすると、月額30万の給料で標準報酬月額が300の人は産前産後休業中はもちろん収入がゼロになります。出産手当金は健康保険組合から支給されますが会社の給料としては支給が無しとなります。そして社会保険料は免除になります。そして産休が終わると育児休業に入るケースが多いですが、育児休業中も会社の賃金はゼロなのが一般的です。ただ雇用保険の方から育児休業給付金が支給されます。産休中と同様に社会保険料は免除されます。
そして育児休業を終え復帰した際に短時間勤務を利用したので賃金が24万円となり、標準報酬月額がどのように推移するかというと赤い線を見てください。標準報酬月額というのはすぐには変わりません。復帰して3か月後に通常図に記載のある「育児休業等終了時月変」というものを会社が申請する場合は多いかと思います。普通の月変では2等級以上の差がないと標準報酬月額は変更とならないですが、この育児休業等終了時月変は1等級の差だとしても月変が可能となります。そうすると標準報酬月額は300→240に変更になるわけです。240になった後は社会保険料が安くなりますが、仮に3歳までこの賃金で勤務を続けた場合、この間の年金額まで将来低下してしまうというわけです。それをカバーするのが養育特例制度なのです。
図の緑の線を見てください。これが年金額の計算について適用される標準報酬月額のイメージです。これが養育特例を申請した場合には3歳までの間ずっと300のままで継続されます。社会保険料としては240で保険料も安くなりますが、年金額の計算上については300とみなして計算してくれるという良い制度です。こちらの制度は何もデメリットはありません。ところがこの制度の詳細が皆さんよくわかっていない人が多く活用しきれていない人もいます。基本的に会社の人事や総務の担当の人はこの制度は知っていて申請するタイミングとしては育児休業等終了時月変を申請する際に一緒に申請するのが一般的だと思います。しかしこのタイミング以外にも申請できますのでこちらを説明していきます。
●本人の申し出により会社が届出をする
→制度の立て付けとしては本人からの申請が原則となっていますが、制度を知らない人も多いので会社の担当の方は該当者に説明されると良いかと思います。
●退職していてもOK
→会社勤めをしている場合は会社経由での申請となりますが、退職した後でも自分で直接日本年金機構に申請可能です。
●2年間は遡及申請可能
→申請していなかった場合でも2年間は遡及申請可能ですので確認してください。
●現に下がっていなくても申出可能
→標準報酬月額が実際に下がっていなくても申請可能なので短時間勤務をしていなくても残業が減って給料が下がる可能性もふまえて申請するのも良いかと思います。
●下がった理由は問われない
→通常の月変では固定的賃金の低下などのルールが定められていますが、養育特例では短時間勤務になっただけではなく残業が減ったことで3歳までの間に算定や月変で標準報酬月額が下がった場合等、極端に言えば子育てに関係ないどんな理由であっても子どもが3歳までの間であれば申請が可能。
●子どもが扶養に入っているかどうかは関係ない
→扶養に入れているか入れてないかは一切関係ありません。両親ともに子どもが3歳になるまでの間申請が可能な制度です。
●産休・育休取得の有無は関係ない
→産休・育休取得後の短時間勤務制度の利用により養育特例を申請するケースが圧倒的に多いですが、取得の有無は関係ありません。
●父母どちらにも適用される
→これを見逃している方が多いです。子ども産んだ女性だけではなく男性にも適用されます。
●転職先でも適用される(再申請が必要)
→前職で申請した養育特例は退職した時点で失効となります。転職先で厚生年金保険に加入していれば転職先でも新たに申請が可能です。

ここまで重要ポイントをお話ししましたが当てはまる人も中にはいるのではないでしょうか。どんな理由であれ厚生年金保険の加入者で3歳未満の子どもを養育していれば誰でも申請できる制度です。子育てに関係なく残業が減ったり、引っ越しによる通勤費の低下で標準報酬月額が下がるケースもありえるわけです。子どもが産まれた時点では仮に標準報酬月額が下がっていなくても、子どもが3歳までの間に下がる場合があるかもしれないということで念のため申請しておくのも良いかもしれません。
いかがでしたでしょうか。この養育特例は原則としては本人の申出により会社が申請するというものになりますので、会社から特に案内がない場合もあります。この動画の中でお話した内容に自分が該当する部分があると思ったならば、まずは会社の方に確認してみてください。本人だけはなく会社でも原則としては本の申出によりとはなっていますが、あまり知られていない制度にもなりますので知識を持っていただいて周知していくのが望ましいと思います。
ということで今回は「子育て中の年金計算が有利になる養育特例を活用しよう!」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。
執筆者

志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員