昨今の物価上昇やインバウンドの影響などもあってか、ホテル代が高騰しているようです。そのため、出張旅費規程に定める金額と実際の宿泊費にギャップが生じ、どうしたらよいか相談を受けることがあります。社労士が対応策を解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「ホテル代が高騰して、出張旅費(宿泊費)はどうなる?」についてお話をします。

昨今の物価高、またインバウンドの影響もあって首都圏を中心にホテル代が大変高騰しているようです。ですから、従業員さんが出張に行ったときに出張旅費規程に基づいて宿泊費が支払われると思いますが、その規定された金額が実態と合わなくなっているというご相談をよく受けます。よって今回はその話をしていきたいと思います。

まず出張費には交通費・宿泊費・日当の3つがあります。今回はその中でも宿泊費のホテル代についてお話をしていきます。この宿泊費については出張旅費規程の中に条文が定められていると思います。

(宿泊費の上限額)

第〇条 国内出張時の宿泊費は実費を支給する。ただし一泊あたりの上限は次のとおりとする。

 一般社員 8,000円

 部課長  10,000円

  役員   12,000円

以前作成された規程では大体このような金額が記載されてある場合が多いかと思います。前提としてこれは国内出張時の話です。そしてこの条文は上限付きの実費支給方式となります。これに対して定額支給払いを導入している会社もありますが、これは少数派です。やはりエリアや時期によってホテル代は変動するので定額支給払いは馴染まないのではないかと思います。基本的には実費支給だけど無制限に認めるわけにはいかないわけで、必要以上に豪華なホテルに宿泊してそれを会社が宿泊費全額払うのは適切ではありません。そのために上限額を設けているわけですが、この上限額が実態と合わなくなってきているのではないか、いくらにすれば良いのかというご相談を受けることがあります。上限額を上げてもエリアや時期によっては結局金額を上げた上限額でも泊まれないケースがあったり、上限額を上げすぎても必要以上に高いホテルに泊まる従業員が出てくるなど悩ましい問題があります。

これに対してヒントになることがあると思うのでこちらをご覧ください。

【参考】国家公務員等の旅費支給規程より

 国家公務員(課長級以下)の都道府県別の上限額

  8,000円 福島・鳥取など

  13,000円 北海道・大阪など

  19,000円 東京・京都など

こちらの規程は令和7年4月から改正されて現状はこの通りです。1番安い上限額は福島県や鳥取県などです。上限は8,000円となります。この規程は一部を抜粋しているので本来は12段階に細かく分かれています。1番高いのは東京や京都などで19,000円となっています。ちなみにこれは課長級以下の規程となりますが、内閣総理大臣は東京や京都などでは4万円の上限だそうです。国家公務員は上限金額が都道府県ごとに細かく規定されていますが、一般企業でこのように細かく規定するのも現実的ではないと思います。上限額に関してもあまり高くしない方が良いと思います。それでも上限額内で泊まれなかった場合どうするのか皆さん心配するのですが、上限額を上げれば上げるほど良いホテルに泊まろうとする従業員が増えますから、もし上限額を上げるのであれば大幅な値上げではない方が良いと思います。対策案としては上限額を記載した次の行に注意書きや第2項として条文を追加することです。

〈対策案〉

①やむを得ない事情があると会社が判断した場合は実費が上限額を超えた差額の一部または全部を支給する場合がある。

どんなに探してもホテルがない、上限額内で探すと出張先の予定の場所から離れた場所、交通の便が悪い場所に泊まらざるを得ない状況になったときに自腹で負担するケースもあるようなので、それは従業員にとって不利益となってしまいます。そこで上限額を超えているホテルに宿泊した場合は事情を考慮し会社が判断するという規定を追加しておけば従業員に負担が及ぶことなく支給可能となります。この条文を既に追加している会社もあるかとは思いますが、私のアイデアでは差額の一部または全部という書き方をしています。要するに従業員が勝手に判断して上限額以上の良いホテルに泊まることを阻止する意味もありますのでこのような文言を入れることも1つのアイデアなのでないかと思います。

②東京23区及び政令指定都市では上記金額の5割増しとする。

政令指定都市というのは人口50万人以上の都市で例えば札幌市・仙台市・名古屋市・京都市・福岡市など全国に20都市あります。いわゆる大都市です。東京や人口が多い場所への出張はやはりホテル代が高騰していますのでこのような記載方法も良いかと思います。

③出張時のホテルなどを会社が手配・精算した時は宿泊費は支払わない。

この規程の前提として出張時のホテルは従業員自らが探して予約して宿泊して立替払いする前提の規程となっています。そうではなくて会社が予約をして精算も済ませてある場合には重ねて従業員に宿泊費を払うことはしないという当たり前の話ではありますが、上限額のみの記載の規程ですと自分で手配して宿泊することが当たり前と思う人も中にはいて重ねて宿泊費の支給があると勘違いする場合があるので念のため記載していたほうが良いかと思います。最近はパック旅行と言って交通費と宿泊費がセットになり割安になるプランもあり、それぞれ手配するよりまとめて手配した方が安い商品もあります。もちろん従業員が個人でパックプランを予約し立替精算をすることも良いですが、このようなパックプランの場合は会社が手配して支払いを行った方が良いのではないかと思いますので、そういった意味も含めてあえて③のような規定も入れておくのも良いかと思います。

ですから上限額を改訂して高い金額を設定することも良いと思いますが、いたずらに吊り上げない方が良いと考えられます。その代わりに対策案として挙げた①~③の条文を追加することによって、どうしても上限額内でカバーできないときの対策にすれば良いのではないかと思います。

今回は宿泊費のお話をしましたが、その中に朝食や夕食を含むのか含まないのかの問題もあると思います。ただその話をすると日当の話も絡んでくるのでそれはまた別動画で解説できたらと思います。

いかがでしたでしょうか。今回は「ホテル代が高騰して、出張旅費(宿泊費)はどうなる?」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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