2025年(令和7年)4月~、高年齢雇用継続給付の給付率が10%に縮小されます。なぜ、このような見直しが行われるのか?会社はどのように対応すればよいのか?社労士が解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。

今回は、「2025年4月~、高年齢雇用継続給付の給付率が10%に縮小されます」についてお話をします。

今回お話ししたい内容は、タイトルで言い尽くされてしまっています。

「2025年4月~、高年齢雇用継続給付の給付率が10%に縮小されます」これが、今回の結論です。

ただ、「この高年齢雇用継続給付とは何なのか」「10%に引き下げられるのは分かったが、今は何%なのか」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょうから、まずはそこからご説明していきます。

まず高年齢雇用継続給付とは何なのかをご説明していきます。

高年齢雇用継続給付とは

高年齢雇用継続給付を受ける条件

雇用保険の被保険者であった期間が5年以上あること

60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者(雇用保険の一般被保険者)であること

現在の賃金が60歳時点の賃金の75%未満に低下している状態で働いていること

高年齢雇用継続給付は、この①~③をすべて満たす場合に、60歳以降の各月、給料の最大15%が雇用保険から支給される制度です。

これは従業員さんに入るお金であり、下がってしまった賃金を補うために雇用保険からお金が出るという制度であり、もらえるのは60歳以上65歳未満の5年間だけ、さらに、賃金が60歳時点の給料よりも75%未満に下がらなければもらえません。

現状は?

いくらもらえるのかというと、60歳時点の賃金(60歳到達時以前6ヵ月の平均をとって求めます)と比較して、減ってしまった賃金の最大15%がもらえます。

例として、60歳時点の賃金が40万円だった場合を考えてみましょう。

その方が引き続き働いた場合、もちろん賃金が低下しない場合もあるのですけれども、定年再雇用制度(60歳を定年として、65歳までの雇用確保義務により希望者全員継続雇用する制度)を導入している会社がとても多いかと思います。

その場合には、定年前に比べ、6割とか7割ですとか賃金が下がってしまうことが結構あります。

・賃金が60歳時点の75%になった場合

40万円の75%であれば30万円です。

この場合、高年齢雇用継続給付の支給はありません。

・賃金が60歳時点の60%になった場合

40万円の60%であれば24万円となります。

高年齢雇用継続給付は、下がった賃金の最大15%、24万円の15%である3万6000円が支給されます。

そうするとこの方は、低下した給料24万円+高年齢雇用継続給付3万6000円となり、27万6000円もらえるということになります。

間違えやすいのが、15%というのは、60歳時点の賃金の15%ではなく、下がった賃金の15%がもらえるということです。

そして、現行の制度では、賃金が60歳時点より61%以下に下がったときにこの最大の15%がもらえます。

61%を超えて75%までの間は、75%に近づくにつれてだんだん給付率は低減していき、75%になると0になります。

これが現状の高年齢雇用継続給付制度です。

どう変わる?

これがどう変わるかというと、「来年の4月以降、最大15%が10%に引き下げられる」、ということです。

ですから、60歳到達時の賃金が40万円だった方は、給料が75%以上であれば変わらず支給無しですし、60%に低下してしまった場合は、24万円×10%で高年齢雇用継続給付の支給が2万4000円となり、24万円+2万4000円で26万4000円を受け取れるということになります。

なぜ見直されるの?

なぜこのように給付率が引き下げられるかですが、元々高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の雇用継続を促進させるためにありました。

お給料が下がってしまってもやる気を無くさないように、頑張って働いてもらうための給付だったのですね。

ところが、今はどうでしょうか?

今、60歳以上65歳未満の方々は当然のように働かれていますよね。

高年齢雇用継続給付として、雇用継続のために雇用保険から一生懸命お金を用意しなくても、当然に働いていますし、そもそも65歳までの雇用確保義務があります。

60歳で定年になったとしても、65歳まで希望者全員を継続雇用する、あるいは定年を65歳にしてしまう、定年自体を廃止してしまうなど、65歳までの雇用確保義務が法律で定められています。

また、一部経過措置が残っていたのですが、その経過措置も実は2025年3月いっぱいで終了します。

そういうことで、この2025年4月以降は65歳までの雇用確保が完全に義務化されるのです。

そういうことがあり、だんだんとこの高年齢雇用継続給付の意義も薄れてきているのではないかということで、15%だったものが10%に引き下げられ、2030年には0%、つまりこの高年齢雇用継続給付という制度自体が廃止されることになっています。

そして、このような見直しが今後進んでいくのですけれども、それに対して会社はどの様な対応をとればいいのでしょうか。

会社はどう対応すればよいか?

60歳から65歳の方は高年齢とは呼びますが、若いですよね。気力もあり、体力もある。色々な経験もしてきていますから知識もあれば技術も持っている。

どんどん労働力不足になる昨今、貴重な戦力です。こういったゾーンの人材というのは当たり前に活用していかなければなりません。

その中で、当たり前のように定年再雇用だからと言って給料60%に下げるというのは、出来なくなるのではないかと思います。これは同一労働同一賃金の問題もありますし、労働力不足で労働移動がこれからどんどん盛んになると思います。

条件が悪ければ条件のいい会社に移ります。

例えば、ある会社で定年まで勤めたとして、これからは定年再雇用だから給料は6割に下がりますと言われたとしたら、ほぼ同じようなことをして6割では割に合わないとして、もっと良い条件の会社があればそちらへ移るということも、当然これからどんどん出てきます。

ですから、会社の対応としては、定年再雇用の際に給料を当然のように6割、7割に下げるのではなく(現状はそういった会社が多いですが)、今回の話の中で「75%」という数字が出ていますが、「75%」まででしたら高年齢雇用継続給付は関係ない話ですし、下げるにしても「75%」という一つのラインを考えるとか、従業員さんがやる気を無くさないような、引き続きこの会社で働きたいと思えるような待遇処遇、そういったものを検討する必要があるのではないかと思います。

今回は、「2025年4月~、高年齢雇用継続給付の給付率が10%に縮小されます」についてお話をしました。

少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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