こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「1か月単位の変形労働時間制とは何か?」についてお話をします。
前回に引き続き変形労働時間制のお話です。前回は1年単位の変形労働時間制とは何かについてお話をしました。今回は1年単位ではなく1か月単位の変形労働時間制とは何かについてお話をしていきます。
変形労働時間制とは
一定期間を平均して週40時間以内にすれば特定の日・週に法定労働時間を超えて労働させられる。
※法定労働時間:1日8時間、週40(44)時間
※労働させられる=所定労働時間を設定できる

今回のお話は1か月単位と言っていますが、1か月以内なら10日や2週間単位でも問題ありません。ただ1か月単位で使われることが多いので今回の動画の一定期間については1か月と前提します。
この変形労働時間制は労使協定または就業規則で定める必要があります。前回の動画の1年単位の変形労働制では労使協定のみで就業規則で定めてやるという方法ができず労使協定を締結し労働基準監督署へ届け出て初めて変形労働時間制を採用することができます。しかし今回の1か月単位の変形労働時間制はどちらでも構いません。労使協定を締結し労働基準監督署に届出をしても採用可能ですし、就業規則で定めていればどちらでも問題ありません。どちらにしても従業員10名以上在籍している事業場というのは就業規則の作成・届出の義務がありますので、その中に1か月単位の変形労働時間制を採用する旨を記載して届け出ておけば労使協定を締結する必要がないので導入がスムーズです。10人未満の事業場では就業規則の作成・届出の義務はないので、仮に就業規則がなかった場合には就業規則に準ずるものに規定を定めれば変形労働時間制を採用することが可能です。就業規則に準ずるものとは社内規定のようなものを作成し従業員に周知しておけば、それは社内のルールブックのような存在で就業規則に準ずるものとなります。それから1日及び週の労働時間の上限はありません。前回の1年単位の変形労働時間制ではいくつかの上限がありましたが、1か月単位では上限がないため、その点では使いやすい制度かもしれません。
それでは「1か月の期間を平均して週40時間以内にする」とはどういうことなのかお話していきます。下記の図をご覧ください。1番典型的な例となります。

1日の法定労働時間は8時間なので1日の所定労働時間を8時間と設定している会社が多いかと思います。5日働くと40時間に到達しますので週休2日となるケースが多いかと思います。左図を見ていただくと4週ある月、例えば2月をイメージしてください。2月は28日なのでぴったり4週間ある月となります。それぞれの週で40時間働くと1か月に160時間働くことが可能です。これが法定労働時間の枠内で働いている普通のケースです。これが右図の変形労働時間制を採用した場合に、例えばこの会社が月初は比較的暇でその代わり月末は忙しいとした場合、1週目の月初は暇なので30時間働くとし、第2週・第3週は通常40時間、月末は忙しいので週50時間と設定します。そうすると週の労働時間はバラバラですがトータルでは160時間となります。このような形で設定できるのが1か月単位の変形労働時間制です。右図をよく見ると、50時間の部分があり40時間を超えていますので変形労働時間制でなければ40時間を超えた部分については割増賃金の支払いが発生します。しかし変形労働時間制を採用している場合にはこれが不要となります。その意味では変形労働時間制は残業代の節約にもなります。
そして図を見ていただければこの変形労働時間制の変形ということの意味がイメージしやすいと思い掲載していますが、左図のように原則の形は4週あって週40時間ですから綺麗な長方形ができます。また右図のように第1週目は30時間、月末の第4週目は50時間というように設計するとデコボコした形になります。それが変形して見えるので変形労働時間制と考えて頂ければ覚えやすいかと思います。
今回は2月を例にとって説明しましたが30日の月と31日の月があるので、こちらについても説明していきます。

上記の計算の範囲内で設計すれば1か月を平均して週40時間以内になるということです。原則の働き方でも変形労働時間制でも上限を超えた部分については時間外労働となります。先ほど変形労働時間制を導入するためには労使協定を届出するか就業規則で定める必要があり、就業規則の方が楽かもしれないという説明をしましたが、就業規則に定めるときに何を書く必要があるのか説明します。
①採用する旨(1か月の変形労働時間制を採用する旨をはっきりと記載する必要がある)
②労働日と労働時間
③変形期間の所定労働日数
④変形期間の起算日
上記内容を就業規則に記載した上で個人間で取り交わす雇用契約書にも同様に記載する必要があります。
【条文例】
・所定労働時間は毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して週40時間以内とする。
・労働日および始業終業時刻、休憩時間は勤務シフト表により決定し、起算日の1週間前までに従業員に周知する。
※始業終業時刻・休憩時間は何パターンか定めて記載しておく
いかがでしたでしょうか。この変形労働時間制は従業員にとっても効率的な働き方ができます。忙しい時にはしっかり働かなければいけませんが、そうでない時には早めにお家に帰れるということです。それから会社にとっても残業代の節約になるというメリットがあります。この機会に採用を検討してみてはいかがでしょうか。
今回は「1か月単位の変形労働時間制とは何か?」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。
執筆者

志賀 直樹
社会保険労務士法人ジオフィス代表
300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。
保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員


