雇用契約を結んで雇入れる従業員に対し、完全歩合制(フルコミッション)で給与を支払うことは問題ないのでしょうか?社会保険労務士が分かりやすく解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。

今回は、「完全歩合制(フルコミッション)は違法か?」についてお話をします。

「完全歩合制(フルコミッション)は違法か?」についてお話をするのですが、最初に結論を申し上げますと、完全歩合制は雇用関係を結んだ従業員に対して適用する場合は、違法になる可能性があります

どういうことかというと、まず歩合制とは何か?という事なのですけれども、歩合制とは売上高や契約件数などに応じて賃金が支払われる給与形態ということになります。
出来高払い制やインセンティブ制と言われることもあり、職種としては、営業さんや美容師さんに適用されることが多いです。

この歩合制なのですが、メリットとデメリットがあります。

メリットとしましては、売上高などに応じて給料が増えるので、やればやった分だけ、頑張れば頑張った分だけ収入が得られるということが挙げられます。

たくさん稼ぎたい人は頑張った分だけ稼げるので、そのことがモチベーションを向上させる可能性があり、これらが歩合制のメリットとされています。

その一方でデメリットとしましては、売り上げがいいときは稼げますけれども、売り上げが悪いときには給料が下がってしまう、そういった収入が不安定になるとこが一番大きなデメリットだと思います。そしてもう1つ、皆さん営業成績を上げようとするのは良いのですが、本来であればチームプレイでやらなければいけないこところを、どうしても個人プレーに走ってしまう傾向がみられるようです。

こういったところも歩合制のデメリットとして挙げられるかと思います。

この歩合制ですが、固定給といって売り上げなどといったものに関係なく月々必ず固定的に支払われる部分と歩合給の部分と、それぞれ払われるということが一般的です。

いくつか例を挙げてみます。

①固定給20万円と、歩合給として売上高の10%を払うケース

②固定給10万円と、歩合給として売上高の20%を払うケース

③固定給が0円で、歩合給として売上高の30%を払うケース

上記のような取り決めをしてやるケースも、この割合というのは色々なのです。

例えば②では、固定給の部分を減らして月々必ず払うのは10万円ですよ、ただ歩合給としては売上高の20%を払います、とこういった取り決めをしています。③では固定給が0円ですので、売り上げが無ければ払われる部分というのは0円だと、ただ歩合給として売上高の30%を払います、というようなケースです。

この③のケースが、まさに今回の完全歩合制になります。

固定給が0円のオール歩合制、この場合、売上が0だとしたら給料は0円になってしまうという給与形態になります。

これが業務委託契約の場合だったら良いのですけれども、雇用契約を結んでいる従業員さんに支払う給与の形態としては、この完全歩合というのは違法になる場合があるので、注意して下さい、ということになります。

何故なのかというと、2つの観点からこれはまずいのです。2つの観点に引っかかって違法となる場合があります。

まず1つ目が保証給です。これは労働基準法の第27条に、出来高払い制で使用する労働者に対しては一定額の賃金を保証してくださいという風に決められています。

ところがその一定額に関しては書かれていません。ですから、行政通達などを拠り所にして、一般的には平均賃金の60%以上の支払いをすることが望ましいという風に考えられています。

仮に売り上げが0だったとしても労働者の賃金を保証してくださいというルールが労働基準法にあるのです。

ですから、③のケースのように、売り上げが0であれば給料も0円だよ、ということは許されないということになります。

それからもう1つ、最低賃金です。これも守らなければなりません。

現在、東京都の地域別最低賃金は1113円ですね。

仮に労働者の月間の所定労働時間が170時間だとします。そうすると、1113円×170時間で18万9210円という事になります。

ですから、この労働者が所定労働時間働いたならば、例えその結果売り上げが0であったとしても、最低賃金を守らなければいけないわけですから、この18万9210円は必ずお支払いしなければならないという訳ですね。

ですから、売り上げが0であれば給料も0円だよ、ということは許されないということになります。

もちろん、この金額を固定給で必ず払ってください、という訳ではないのです。

固定給の部分と歩合給の部分を合わせてクリアしていればいいのですけれども、やはり売り上げが悪い月もあり得る、売り上げが限りなく0に近づく可能性がある以上、固定給の部分でここをクリアしておいた方がいいということは言えますよね。

私はそういう風に勧めています。

先ほどの①~③、この①より③の方がハイリスクハイリターンというか、頑張った分は稼げるけれど、売り上げが少なかったときは稼げなくなってしまいます。

①は安全ですね。歩合給が少ないので売り上げてドカンと稼げるという訳ではないけれども、安定的に20万円稼ぐことができます。

先ほどの例に照らし合わせても、固定給だけで最低賃金をクリアしていますから、仮に売り上げが0でも問題はありません。

例として、売り上げが500万円あった場合の①~③を見ていきましょう。

①では500万円の10%で50万円の歩合給が入ります。そうすると、固定給の20万円を合わせて70万円稼げます。

②では、500万円の20%ですから100万円の歩合給が入ります。そこに固定給の10万円を合わせて110万円稼げます。

③のケースでは、500万円の30%で150万円稼ぐ事ができる、という訳なのですね。

売り上げが大きいときには、歩合が大きい③の方がたくさん稼げます

次に売り上げが50万円あった場合の①~③を見ていきましょう。

①では50万円の10%で5万円の歩合給が入ります。そうすると、固定給の20万円を合わせて25万円稼げます。

②では、50万円の20%ですから10万円の歩合給が入ります。そこに固定給の10万円を合わせて20万円稼げます。

③のケースでは、50万円の30%で15万円、固定給が0ですから、この方の今月の給料は15万円、という訳なのですね。

売り上げが少ない月は①の方が強いですよね。固定給が保証されていますから。

この50万円のケースだと、①→②→③の順給料が多く、500万円のケースでは③→②→①の順に給料が多くなっているという訳なのですけれども、やはりこの15万円というのは、東京都の場合ですけれども最低賃金に抵触していますので、この時点で違法となってしまいます。

ですから結論としては、雇用関係ではない業務委託は別として、雇用契約で従業員を雇って給料を支払う場合には、完全歩合制(フルコミッション)はやめてください、というのが今日の結論になります。

いかがでしたでしょうか?

先ほどご説明したように、歩合制にはメリットとデメリットがあります。

また、歩合制を導入するのかしないのか、導入するにしても、この固定給と歩合給の割合をどうするのか、その辺をよく考えて頂きたいです。

私のお勧めは、あまり歩合給の割合を高くしない方です。

月次給与というのは生活給ですので、あまりアップダウンない方が良いと思います。

その辺も十分にご検討頂ければと思います。

今回は「完全歩合制(フルコミッション)は違法か?」についてお話をしました。

少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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