従業員が非違行為をした場合の懲戒処分として、減給(の制裁)を定めている会社は多いと思います。この減給をする時、金額の制限などはあるのでしょうか?社労士が解説します。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。

今回は、「懲戒処分として給料の20%を3か月間カットできるか?」についてお話をします。

今回は相談事例です。

主に下請けでお仕事をされている建設会社さんからのご相談です。

『当社の従業員が建設現場内で煙草を吸い、吸殻を現場にポイ捨てしていたことが元請けのハウスメーカーの担当者に見つかり、大目玉を食らいました。現場敷地内の喫煙は厳重に禁止されており、今後の取引関係にも影響を及ぼしそうで困っています。この社員は今までも何度も問題を起こしており、何回か始末書も取っていますが、改まる気配がないので、罰として給料を減額するしかないと考えております。社長は「3か月間、給料の20%をカットしろ」と言っていますが、それは可能でしょうか?』

いきなり結論から言ってしまいますが、労働基準法の適用を受ける民間企業では、こういうことはできません。給料の20%をカットするような懲戒処分はできません

こういう風に言いますと、「ちょっと待ってよ。ニュースや新聞では、3か月間20%の減給処分にしたという様な事を耳にしたことがあるよ。だから出来るのではないの?」と、こういう風に思った方もいらっしゃるかもしれません。

それは、国家公務員だから可能なのです。国家公務員というのは労働基準法の適用を受けませんので、懲戒処分に関しては別の規定があります

参考までにご説明すると、人事院規則というものの中で、職員の懲戒について規定したものがあります。

人事院規則12-0(職員の懲戒)

『減給は、1年以下の期間、その発令の日における棒給の5分の1に相当する額を、給与から減ずるものとする。』

この後はちょっと省略しておりますけれども、減給についてはこのように規定されています。
これにより、1年以下の期間ですから、例えば3か月間とか6か月間減給することができますし、減給の額も棒給の5分の1ですから、20%まではできるのです。こういう人事院規則の適用を受けますので、国家公務員に関しては、皆さんがニュースで耳にするような処分というのは起こりえるのですけれども、民間企業に関しては労働基準法が適用されます。

労働基準法の中に、この減給について規定した条文があるので見ていきましょう。

減給というのは、いくつかの懲戒処分の中の1つですね。

従業員が何か悪いことをしたときに「罰」を与えますが、その「罰」の事を懲戒処分と言います。

その罰にも、軽いものから重いものまで種類があって、始末書→減給処分→出勤停止となり、最後に懲戒解雇というものがありますが、減給処分もその中の一つです。

これは、減給と言われたり、減給の制裁と言われたりもしますが、これは労働基準法第91条にルールが決まっているのです。

まず、就業規則に規定されていることが必要になってきます。

懲戒処分というものは、減給だけではないですけれども、ちゃんと「こういうことをしたらこういう処分になるよ」ということが就業規則に規定されていないとそういった処分はできないのです。

「こういったことをやる」というのが懲戒事由「こうした場合にはこの処分になるよ」という風にちゃんと書かれていることが必要だというわけなのです。

ただし、やった行為と罰の重さのつり合いが取れていないといけません。

例えば、「1分でも遅刻したら減給処分にするよ」ですとか「ちょっとしたミスを1回でもしたら減給処分にするよ」ですとか、そういうものはつり合いが取れていないので、こういうのは懲戒権の乱用と言って認められていないのですね。

それは注意してください。

それから減給処分の場合、どこまでも減給できるわけではなくて、上限額も決まっています

悪いことを1回したら、その1回の減給の処分についてできる減給の処分は平均賃金の1日分の半額までになります。

例えば、就業規則に「遅刻を3回したらこういう処分にするよ」と書いたとします。その場合、「遅刻3回」が1回となります。

その遅刻3回で減給処分がいいかどうかはちょっと置いておいて、仮に遅刻3回で減給するという規定になっていた場合には、3回やって初めて1回処分されるということになります。
ですから、次にもう3回やって合計6回になったらもう1回処分できるということなのです。

平均賃金の計算方法については別の動画で解説しておりますので、そちらを見て頂ければと思います。

ざっくり言うと、直前3か月の給料の総額を、その間の歴日数で割って求めます

そうすると、平均賃金の1日分というものが出ますので、その半額までしかできないのです。平均賃金の1日分が8000円だったとすると、4000円が減給の上限となります。
先ほど言ったように、その1回につき4000円なので、2回目の悪いことがあったらもう1回4000円まで減給することができるということで、その場合には加算していくわけなのです。

それでは、「何回も何回も悪いことをしていったときに、どんどん減給が加算されて最終的に月給額が0になることはあり得るの?」と思われるかもしれませんが、それはできません。

なぜなら、減給の総額が一賃金支払い分における賃金総額の10分の1までと決まっているからです。

要するに、複数回悪いことがあって、「平均賃金の1日分の半額」の減給を何回も加算していったとしても、月給制の場合には、1か月分のお給料の総額の10分の1までしか減給できないと決まっているということです。

いくら悪いことをしたといっても、どんどんお給料が減額されて行って0円になったりしてしまうと、その方は生活ができなくなってしまいます。それはまずいでしょうというわけで、10分の1までなのですね。

じゃあ、すごく悪いことを何度もやったけど、この10分の1に引っかかってそれ以上減給できないのだったらどうするの?ということなのですが、それは翌月に繰り越せます。

その月にたくさんの悪いことをして、減給の累積額が10分の1を超えてしまい、引ききれなかったものは翌月に繰り越すことができます

また、この一賃金における「賃金総額」の考え方なのですけれども、これは例えば月給で毎月月給額が決まっている場合でも残業が多かったら増えますし、欠勤が多かったら減りますよね。

賃金総額は、その増減も考えた額、実際に支給される額です

それと、これは手取りではなく額面なのですね。

その賃金総額(総支給額)の10分の1まで、ということです。

また、この減給、「月次給与からの減給ではなく賞与から引くということはできるの?」と思われた方もいらっしゃると思うのですけれども、それはできるのです

ただ、賞与から減給する場合であっても、1回につき平均賃金の1日分の半額までというのは変わりません。

そして、総額に関しては、その賞与の額の10分の1が上限という風になり、下に書きました①と②がこの減給の制裁に関するルールなのですね。

③~⑥は流れで書いてしまいましたが、この減給の制裁に関する注意事項ということになります。

減給の制裁の話ではないのですけれども、ちょっと大事な注意点がありますので、見ていきましょう。

〈減給の制裁〉労基法91条

①就業規則に規定が必要

②上限額がある

1回の額…平均賃金の1日分の半額まで

総額…賃金支払期における賃金総額の10分の1まで

③不就労控除はOK

どういうことかというと、例えば無断欠勤をした、連絡のない遅刻が何回か繰り返したときに、減給するのであれば①②の制約がかかってくるけれども、その遅刻した分や欠勤した分のお給料を払わない、これは当たり前のことなのですね。

ノーワークノーペイの原則によって働かなかった部分は給料払わなくていいということが別にありますし、多くの会社は、そういった遅刻や欠勤の給料は引きますよという不就労控除のルールが決まっていると思います。

これは懲戒処分ではありませんので、こういった減給の縛りは受けないということです。

この不就労控除した他に、減給の制裁をやるということはあり得るということで、その減給の制裁に関する部分に関しては、①と②の制約を受けます、ということです。

④「罰金」はダメ 労基法16条(賠償予定の禁止)

どういうことかというと、先ほどの相談事例のように現場敷地内で喫煙をしたという様な「絶対にしてほしくないこと」があるので罰金を決めておこう、例えば「喫煙をしたら罰金3万円」ですとか、あらかじめ決めておくのはどうなのか?

これは、できないのです。

実は、労働基準法第16条で賠償予定の禁止という規定がありまして、あらかじめ罰金の額を決めておく、こういうことをしたら罰金いくら、と決めておくことは禁止されています。

⑤降格による減給は別問題

例えば、先ほどの事例の中で厳重に禁止されている行為をした方が課長さんだったとします。

禁止行為をした人に課長職は任せておけないよね、と人事異動で課長職を解いたという場合に、今まで課長手当(役職手当)がついていたとして、課長ではなくなったわけですから役職手当を外れることになります。

これは人事異動に伴って給料が変動しているだけであって、懲戒処分による減給の制裁ではありませんので、こういった制限は受けないということになります。

⑥「出勤停止」期間中の賃金の不支給は別問題

どういうことかと言いますと、先ほど少しご説明したように、懲戒処分にもいろいろあります。

その中の一つに「出勤停止」という懲戒処分が規定されている会社さんも多いかと思います。

例えば、就業規則の中に出勤停止14日以内の出勤を停止し、その間の賃金を払わない、このような懲戒処分を設けている会社も多いかと思います。

するとですね、この出勤停止になった従業員に対してはその間給料を支払わないというわけですから、例えば14日間の出勤停止があったならその間の給料は不支給となります。

ということは、この「賃金支払期における賃金総額の10分の1」どころではなく、ごそっと賃金は不支給になります。

「それはいいの?」思われるかもしれませんが、これは問題ありません。

なぜなら、この出勤停止というのは、減給処分とはまた別の懲戒処分とだからなのです。

この制限というのは、あくまで減給という懲戒処分をしたときの制約であり、出勤停止はまた別な懲戒処分であるので、出勤停止を受けたことによって当然に賃金が不支給になったというのは、減給とは全く別の話ですので、その制限を受けません。全く別問題であるということになります。

この③~⑥は減給の制裁とはまた別の話ですけれど、ちょっと関連する注意事項であるのでこの流れで書いておきましたので、よろしくお願い致します。

いかがでしたでしょうか。従業員が悪いことをすると、もう社長がカンカンに怒って「懲戒処分だ!」とやりたくなるのですけれども、今回ご説明したように懲戒処分をするにしても色々な制限がありますので、もしそういうことをやるときにはお近くの社会保険労務士に相談の上進めて頂ければよいかと思います。

今回は、「懲戒処分として給料の20%を3か月間カットできるか?」についてお話をしました。 少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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