入社時に従業員が会社に提出する書類の一つに「入社誓約書」があります。その目的や効果、盛り込むべき記載内容について、社労士が解説します。

入社誓約書フォーマット

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「入社時の誓約書に記載する内容は?」についてお話をします。

入社時の誓約書

入社に際し、会社の規則を遵守し、一定の義務を果たすことを約束してもらう書類。 →雇用契約書・身元保証書

この入社時の誓約書は法的効力がないという見解も見受けられますが、合理的な内容であれば、一定の効力を有する「心理的抑止効果」もある。(署名捺印)

従業員側が良く理解し取り交わして書類であり、署名捺印してもらっているのに全くの無効や何の意味もない書面ということは無いと思います。仮に法的効力がなかったとしても、心理的抑止効果にはなるはずです。会社としては提出してもらった方が良い書類になります。

今回のお題は入社時の誓約書にどういう内容が記載されているのかということです。これを説明していきたいと思います。あくまでも法律で定められた書類ではないので項目は会社の自由です。よって参考例としてご紹介させていただきますので、この中から会社にあった内容で作成すればよいかと思います。項目は分かっていても内容に迷ってしまうかもしれませんので、12項目で入社誓約書を作成してみました。概要欄にリンクを貼っておきますので確認してみてください。

この入社誓約書に関してはあまり長々と記載しない方がいいです。これから12項目挙げますが、何ページにもなる誓約書を渡すとこれから従業員になる方々は引いてしまいますし、極端な話それを見て内定辞退もあり得る可能性もあるので簡潔に作成してください。項目とは別に日付・社名・代表・署名捺印欄などは忘れずに含めてください。従業員から会社に提出してもらいますが、控えとしてコピーを本人に渡した方が良いかと思います。

●項目の例

①就業規則の遵守

就業規則いわゆる本則や賃金規程などさまざまな規程があるはずなので、それを遵守し誠実に勤務することを約束していただく条項です。要するに服務規律を守ってくださいということになります。細かく記載すると長くなってしまいますので要点だけまとめて記載したほうがいいです。絶対に守ってほしいものを独立して記載することも可能ですので、例えばSNSへの投稿、セクハラ・パワハラ、贈収賄、品位の保持などを強調して記載するのも良いかもしれませんが、このような内容は大体就業規則へ記載があるはずなので今回のサンプルではまとめて就業規則の遵守ということで作成しています。

②指示命令への服従

当たり前ではないのかと思う方もいるかもしれません。しかし最近は当たり前だと思っていない方もいて上司に向かって何でやらなければいけないのか異議を唱える人もいるようです。通常ではあまり考えられませんが、ゼロではないため教育的効果として記載しています。

③経歴の真実性

履歴書や職務経歴書など採用にあたり色々な提出物があると思いますが、嘘を書いていないという誓約です。いわゆる経歴詐称をしていないという内容です。その他にも記載されている資格についても真実だということを証明する情報になります。

④健康状態の申告

入社早々に遅刻や欠席が多いというケースも時々あるようです。よく聞いてみると入社前から鬱病だったなどの話が後から出てきたりするようなことも見受けられます。精神疾患だけではなく正常な勤務ができない、業務遂行ができないような健康状態だと困るので、そうではないことを誓約していただく内容となります。

⑤秘密保持

業務上で色々な会社の機密情報を知る可能性があります。在職中はもちろんのこと、退職後も会社としては口外されては困るので漏洩したり開示したり複製したりなどの行為をしないことを約束していただく内容になります。これについては非常に大事なことなので1項目でさらっと記載するのではなく、独立した別の誓約書を作成しているケースもあるようです。例えば「秘密保持に関する誓約書」といったタイトルで入社時誓約書とは別に用意し従業員に提出してもらう会社もあります。

⑥個人情報の取り扱い

従業員自身の個人情報をどのように取り扱うかについて記載していますが、会社は預かった個人情報を色々な面で閲覧・使用することに対して同意を求めている内容です。利用目的というのはなるべく書いた方が良いです。全部は書ききれないと思いますが、今回は人事労務管理・給与計算・健康管理・安全管理・福利厚生と5個記載しました。それ以外にもありますが、なるべくここは具体的に書いた方が従業員にとっても分かりやすいです。また健康診断結果の提出というのも必要になりますが、それを拒む人も時々いるというお話もありますので独立して記載するのも良いかと思います。

⑦競業避止義務

色々重要なことはあるのですが。⑤の秘密保持とこの競業避止義務は特に大事な項目といっても過言ではありません。このために誓約書を作成していると言っても良い程です。要するに同業他社に就職しない、同じ業種で自分で起業しないというのが競業避止義務なのですが、会社としてはそれをされたら困ってしまうので在職中はもちろんですが退職後も一定の範囲で競業避止をしてほしいということで今回盛り込んでいます。ただし無制限は認められません。退職後の職業選択の自由がありますので無制限に同じ業界では二度と働くことを禁止することはできません。退職後の競業避止義務は時間的・場所的制限というものがあると認められやすいです。今回は退職後1年間という形で時間的制限を設けています。そして場所的な制限としてはどのぐらいの幅が認められるかというのはケースバイケースとなります。会社の規模や業種にもよると思います。今回のフォーマットでは例として会社(本社、支店、営業所等を含む)が所在する市町村及び隣接市町村として場所的制限を設けました。こちらの制限については一概にこれだったら大丈夫とは言えないのでフォーマットは一例として参考にして下さい。退職後の競業避止義務の有効性は職種・地位・代償措置等にも左右されますので入社時の誓約書には記載しない方が良い場合もあります。

⑧人事異動への同意

配置転換、職種転換、転勤などについて会社から命じられたら拒否しませんという様な内容ですが、これはもちろん正当な人事権の範囲内でということになります。就業規則に根拠の記載があることが大事ですし、労働条件通知書や雇用契約書の中で、そもそも勤務地が限定されている方などは転勤させたりできません。

⑨反社会的勢力の排除

反社会的勢力であることが分かると取引先から継続的な取引を打ち切られたりする可能性もありますし、必要な条項だと思います。もしこのようなことが判明したら直ちに処分し、処分されても異議申し立てをしないという内容を書き足しても良いかもしれません。処分というのは懲戒処分や解雇、退職勧奨などです。

⑩退職時の義務

就業規則などに自己都合により退職する場合には遅くとも30日前までには退職届を提出すること等といった内容が規定されていることがよくあります。それを守って業務の引継ぎをしっかり行ってほしいという内容となります。業務の引継ぎはきちんとやらないと会社で残された人は困ってしまいます。加えて有休消化ですが、突然退職すると言ってそれ以後有休消化して会社に来ないとなるとそれは業務の引継ぎができなくなってしまいます。有休消化は正当な権利ですがそれを止めることはできませんので、業務の引継ぎをきちんと行うこととしています。

⑪退職金の減額・不支給

これはここまで挙げてきた項目に対して違反した場合に退職金が減額又は不支給となっても異議申し立てしないと約束する内容です。⑩で説明した内容にも重なりますが、退職までに業務の引継ぎをやってほしいけれど、有休消化を申請されたら会社は拒否できないため、それを防ぐ方法がありません。業務の引継ぎ無しに退職することを防止する1つの方法として⑪に退職金の減額・不支給の内容を入れました。これはもちろん退職金規程との整合性がなければいけませんので注意してください。

⑫損害賠償

故意または過失により会社に損害を与えた場合その損害を賠償するという内容ですが、会社が実際に損害を被ったのであれば、その損害に対して賠償するということです。この損害賠償の項目ですが、もしかすると知識のある方は労働基準法第16条「賠償予定の禁止」違反ではないのかと考える方もいるかもしれません。結論から言うと違反にはなりません。労働基準法で言っているのはあらかじめ賠償額を決めて契約することに対しての法律ですので、今回の項目では賠償額は決められておらず、実際に損害が発生した場合に賠償しますという内容になっていますので、違反にはなりません。

以上があくまで一例ということになりますが、ご説明した項目を盛り込むと良いのではないでしょうか。自分の会社にはこれは必要不要があると思いますので、それぞれの会社ごとにオリジナルの入社誓約書を作っていただければと思います。

いかがでしたでしょうか。今回ご説明した入社時の誓約書ですが、これは冒頭にも言いましたが、あれもこれも禁止と沢山盛り込めば良いというわけではありません。あまりにも厳格な誓約書の内容だと内定者の方にひかれてしまい下手すると内定辞退にもなりかねません。やはり大事なところを抑えてなるべくシンプルな誓約書の内容にしていただければと思います。そして誓約書を提出していただく際には目的をしっかり説明し安心・納得・理解していただくことが重要です。

今回は「入社時の誓約書に記載する内容は?」についてお話をしました。少しでも参考になれば幸いです。

執筆者
志賀 直樹

社会保険労務士法人ジオフィス代表

300社以上の労務管理をサポートしてきた経験を活かし、頻繁な法改正への対応や労働トラブル解決を中心に、中小企業に寄り添ったサービスを行う。

保有資格
・特定社会保険労務士
・キャリアコンサルタント(国家資格)
・2級キャリア・コンサルティング技能士
・産業カウンセラー
・生産性賃金管理士
・日商簿記1級
・ラジオ体操指導員

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